―――――懐かしい夢を見た。

 まだ世界を知らず、無邪気で、平和で、素直に、純粋に思いを語ることが出来たあの頃。
 10年後の自分と彼を知っていたら言ったりはしなかっただろう。
 君は皇帝になれ、僕は力になる。なんて。
 だが、時間が戻るわけでもないし、後悔していることなんて他にも沢山あるけれど、今思えば、あの時は幸せだったと分かる。
 そのとき書いた、願いごと。


わ く ば 、し い 世 界 で あ り ま す よ う に

 残念ながら、と言うべきか、当時短冊に何を書いたのかは覚えていない。ただ、ルルーシュはナナリーの幸せを書いていた気がするし、それを茶化しながらも自分も同じことを書いていたのかもしれないと思う。
 全く人の記憶とは曖昧なものだ。それともゼロとして生きる自分には必要の無いことだから削除したのか。
 兎も角、そんな何とも曖昧なだが懐かしい夢の最中で目が覚めた。傍の時計は良い時間を指していたので、疲労による眠気も早々、スザクはベッドを下りる。
 特注のそれに袖を通すのも随分慣れた。だが着るたびに全てを背負って逝った彼を思い出す。ゼロと言う英雄の記号が板に付いているのか未だに分からない。
 先の夢のことがまだ頭から離れないままナナリーの部屋に行くと、既にシュナイゼルが在席していて何かを話し合っているようだった。
 挨拶は早々に、今週のナナリーの予定表をシュナイゼルから手渡される。
 見た夢の所為か、目に飛び込むSTAR FESTIVALの文字。
 スザクは目を見張った。単なる偶然だろうか。


 かつての上司から連絡が入ったのは、西の空に太陽が沈み、空が藍色を帯び始めた時分だ。
 今は上司でも、専属開発チームの主任でも無かったが、彼の気紛れは今に始まったことではない。彼は自分の研究以外にはいつもそれだ。もしかすると無関心と言う言葉の方が近いかもしれない。
「ナナリー代表が、ですか?」
 まさかロイドの口から彼女の名前が出てくるとも思わず、スザクは聞き返した。極力平静を装ったつもりだが、枢木スザクを良く知る彼にはばれていたかもしれない。
 そ。とそれを知ってか知らずか、適当に答える。
「ゼロを自室にお呼びだってさ」
 人伝なのかなんともどうでも良さそうな感じだ。まぁ、帝政時代でさえシュナイゼルにああだったのだから分からなくはないが。
 スザクがゼロになってからこの方、特に私用で呼び出されたことは無い。…となると。
「緊急事態ですか」
 ロイドの口調からは想像できないが、その声音はある時―――研究対象に被害が生じたとき――以外は変わらない。急いでいるようだったというだけでも、情報があればありがたい。
 だが返ってきたのは、さあ?と言う投げやりな言葉だ。行けば分かるのではないかと言うが、スザクがゼロとして判断を下すには、まだ心の準備が必要なのだ。
 兎に角、了承の意を伝えて通話を終える。仮面を被り、ナナリーの自室へ向かった。

 入る前にノックしたが返答は無い。彼によれば彼女自身がそこに呼んだのだから、不在ということはあるまい。無礼だとは思いつつ、前置きの言葉とともに部屋に足を踏み入れた。すると、バルコニーへの窓が開いていて、夜風がカーテンを揺らしていた。
 ゆっくりとそちらへ歩いて行くと、姿が見えるか否かのところで、ナナリーは振り返った。アッシュブロンドの髪が月光に照らされ、光を放っている。
「急にお呼び立てして申し訳ありません、ゼロ」
 緊急かと思うところがあったので、その穏やかな声音に少し拍子抜けしてしまう。
「……いえ。その、何か」
 もしこの場にルルーシュが居たら、他に適切な言葉があるだろうと駄目出しが飛んで来そうだが、意表を突かれた(しかもプライベートの場で)スザクには、それ以外の言葉は見つからない。
 バルコニーに一歩出たところで直立するゼロに、ナナリーは微笑して手をテーブル傍の椅子に向ける。
「どうか楽にしてください。公の場ではありませんから」
 ナナリーは知っている。ゼロが枢木スザクと言うことを。
「……その名を、素顔を明かせとは言いませんから」
 そこまで言葉を紡いで、ナナリーはゆっくりと目を伏せた。
 スザクには僅かな時間でもそれがありがたかった。彼女の瞳は、彼を――ルルーシュを思い出させる。あの日の光景が脳裏を過ぎる。
 少しの間があったが、ゼロはナナリーの誘いを断らず席に着いた。仮面越しに少女を見つめる。
 ナナリーはゼロが楽になど決してしていないと知っていたが、特に気分を害した様子は見せなかった。
 ただ、改めて感じるのだ。自分は計画の蚊帳の外だったと。
 テーブルにあった紅茶に手を伸ばす。少し冷めていて、ポットも同じテーブルに置いてあったが、注ぐことも彼に勧めることもしなかった。仮面をとれなどとは言わない。彼女なりの意志の表れだ。
 彼らは互いに境界線を引いている。兄の敵で唯一の友。友の肉親で最愛の人。それらは決して相容れるものではなく、そしてまた、彼が枢木スザクと言う個人で無いがゆえに線引かれている。
「今日が何の日かご存知ですか」
 不意にナナリーが言った。
 スザクは記憶を辿る。一瞬だった。懐かしきあの日の夢が即座にそれを結びつけた。
「STAR FESTIVAL――あなたの予定表にそう」
「日本では七夕、と言うのですが」
 と、そこで一度言葉を切って、テーブルの端に寄せてあった何かをこちらに寄せた。
「これに願い事を書くと願いが叶うそうなんです」
 笑っているがどこか哀しい顔―――スザクはそれを知っている。
 彼女が誰かを思い出すとき見せるそれだと。
「ゼロ、あなたの願いはなんですか?」

 スザクは思う。ナナリーが、ゼロの正体を知っていると。
 それでもなお、彼を責め立てたりはせず、公の場では彼を非難し続け、生きていこうと思う本当の理由は知らない。知るすべすらない。
 だが、その一方で推測を立てる。それはルルーシュの願いだからではないかと。
「ナナリー代表は何と?」
 気が付けば、そう訊ねてしまっていた。
 すると彼女は微苦笑して、書いたそれを見つめた。
「あなたと同じです、きっと」
 スザクはさらりと筆を進めた。迷うことなく短冊に願いを書きとめる。


――――俺は人々の願いと言う名のギアスにかかる。世界の明日のために。


 ルルーシュは笑っていた。
 不敵に、得意げに、全て計画通りだと言わんばかりに。


――――ギアスとは願いに似ていないか?自分ひとりでは出来ないことを誰かに求める。

 ひとなみの幸せさえ世界に捧げることがスザクへの罰であるというのなら、
 ルルーシュの願いを受け継ぐというのなら、

 その短冊に書く願いは、ひとつ。


誰かを守りたいと思うこと、そのために戦えること。それが




『優しい世界でありますように』




END



イベント当日にどうにもならないことは最早言うまでもない←それにしても酷い
ロイドさんとかセシルさんとか、会ったとしたらカレンあたりなんかはスザクとして接するんじゃないかなぁというのが最近の見解。身分も何も無いんだから誰にどう接しようが勝手だろうとか言いそう(笑)
ルルーシュはスザクに罰だと言いましたが、彼にも幸せになってほしいはずなんです。
と言うやっぱり基本はルルーシュ中心なお話でした。