Candle Knight ゼロレクイエムからひとつの季節が廻ろうとしていたころ、スザクはブリタニアの暫定代表の地位に就くナナリーに呼び止められある提案を受けた。 「キャンドルナイト、ですか?」 スザクは突然の提案に言葉を返す。まだこの辺りはルルーシュのようなゼロを演じ切れてはいないと実感する。 きょとんとした表情が見えている気さえしたが、ナナリーはそれに構わずはい、と頷いて続けた。 「いかがでしょう」 ブリタニアの暫定代表として本国政府が要請したことを着実にこなしている一方、ナナリーは世界の実情を知るべく各国に足を運んでいる。勿論、仮とはいえそのような身分にある以上大々的にとはいかないが、それ以外にも方向性を模索しているようだった。 ゼロがナナリーに同行するのは、政治的な活動に限られる。 それはまだ世界が混乱の最中で、とてもスザクだけでは(シュナイゼルが付いていても)対応できないからという理由もある。だが、根本的にいえば余り先立って何かを行わない方がいいのだ。ゼロはどの国からも中立であって、争いの根源となってはならない。 だから、ナナリーから提案を受けたのは意外だった。 「はぁ…その、キャンドルナイトと言うのは?」 具体的に何を言っているか皆目見当がつかない。和訳して蝋燭の夜、だろうか。同音の騎士の方かとも思うが、それでは弱々しい騎士が主人公の小説のようだ。 スザクが少しずれたことを考えていると、ナナリーは机上にあったパンフレットをゼロに勧めた。とある法人の小冊子だ。開けば団体の紹介と、活動内容が書かれていた。 そのひとつ「キャンドルナイト」。 各国標準時のある一定時間に電気を消して、排出される気体を減らそうと言うのだ。 テレビもパソコンも、明かりも消して蝋燭の火で過ごそう。そんな内容のスローガンが書かれている。 そういえば、ナナリーに同行したシュナイゼルが言っていたか。史跡保護に関連して、環境保護についても考えていると。 「この団体では、夏と冬に1度ずつ呼び掛けているそうなのですが――」 来週あたりに私たちでやってみるのはどうでしょう。 とナナリーは言った。 一見、視察で感化された突発的で気紛れの発案に見えたが、実はそうでもないらしかった。 * それからナナリーが直接内容に触れることはなく、スザクに時間と場所を告げたのは当日の行程が全て終わり自室へと引き返す廊下でのことだった。 彼女がそれを言ったのも唐突で、何の説明もなかったが、何を差しているかは分かっていたので素直に了承した。 戦争慰霊碑。その場所がどのような目的で建設されたのか、痛いほどにスザクは良く知っていた。 時間通りに行った時には既に人はたくさん集まっていた。見知らぬ人も多かったが、この場に及んで漆黒のマントに特殊な仮面と言う格好でも、騒がれることはなかった。新たな訪問者に向けられる一瞥だけで、直ぐに視線は水面に戻された。 そこには、火の灯された蝋燭が浮かんでいる。 スザクがナナリーを探し当てるよりも早く彼女はその到着に気付き、車椅子を走らせてきた。 「ゼロ、あなたもこれを」 と言ってスザクに差し出したのは、手のひらサイズの蝋燭。辺りを照らすそれと同じものだ。 加えて言えば、スザクはそれに既視感を感じていた。 側面に文字を刻んで芯に火を灯し、水面にそっと浮かべた。手を手を離せば水の流れに従ってゆっくりと動き、スザクの元を離れて行った。 普段は人工的な光だが、今日のそれは比べると随分と柔らかくて優しい。 まるで灯籠流しのようだ、とスザクは思った。 水面に揺れる蝋燭が川を流れる提灯に見え、気がつけば蝋燭にイニシャルを刻んだ彼の冥福を祈っていた。 彼のフルネームを記すことは許されない。ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアと言う名は、悪名高き皇帝としてあまりに有名すぎる。 その名を刻んでいる者が居たと知られれば、彼を擁護していると思われかねず、疑いの目はひとりの肉親に向けられる。 前者は彼が望んだことだが、後者は彼の願いでは無い。 無意識に仮面の下で目を瞑っていて、スザクはナナリーに手を触れられるまでそれに気が付かなかった。 スザクが流した蝋燭はやがて蝋燭の群れの中に入り、ひとつのそれとぶつかる。そこには彼の愛称が刻まれていた。あの時、彼女の名前を書いてくれた人が居るように、今回もまた、彼の名前を書いた人が居るようだ。 「私たち以外にも、いらっしゃるのですね」 スザクが己の離した蝋燭を見つめていると、ふとナナリーが呟くように言った。視線を彼女に向けると、日が落ちてからこの場所を訪れた人にキャンドルを渡しているのだと、スザクの灯したそれを目で追いながらだが別のところを見ているような表情でそう続けた。 今のナナリーには刻まれた蝋燭がはっきりと見えている。世界に無知蒙昧な、気持ちだけが先行していたあの時とは違う。 彼女の護衛として側にいたスザクはゼロとなり、彼らの立ち位置は互いに変わっていることが皮肉の様ではあるが、願うところはあまり変わっていないのかもしれない。 せめて、大切なものを失わないですむ世界。 「そのようですね」 ナナリーの言葉に同意して、スザクはもう一度明日を願って逝った友に思いを馳せる。 それを優しい世界と言うのなら、君の死は意味があったと受け入れられるんだ。 END *Postscript* 最終回放映1年ルルーシュ追悼話。 実は夏至に書こうと思っていたネタだとか言ってみます。秋分過ぎましたよね…この前orz 知人が大学サークルでやっていたイベントを参考に。環境問題がギアス世界にあるか疑問ですが(苦笑) タイトルのKは単にKnightの方がギアスっぽいなぁという理由だけです(爆) ゼロの格好は目立ちすぎだろうと思いつつ、彼女に素顔を晒すには時間が掛かると思うのでした…。 '09/09/28 |