Second Season

 「キャンドルなんて、あなたにしては洒落てるわね」
 冗談半分からかい半分、そんな言葉が少し離れた所から掛かって、スザクは顔を上げた。
 ゼロの仮面を被っていなかったので、スザクは急いで右手の傍に置かれた場所に手を伸ばす。だが彼女の前で仮面は不要なことに気が付いて、スザクはそれに手を添えることに留めた。
 彼女は既に、ゼロの正体を知っている。
 カレンは何も言わずに、スザクの隣に座った。
「…3か月前のキャンドルなんだ」
 視線を水面の浮かぶ蝋燭に向けてスザクは静かに言った。以前とは随分と穏やかになったその顔を、カレンは隣から小さく覗き込んだ。
「3か月?」
 その瞳は、本当のところは蝋燭を見ていないのかもしれない。
 スザクの視線の先にそんなことを思いながら、カレンはそれに心当たりが無いように、少し恍けて見せた。
「キャンドルナイト――ナナリーが発案した企画」
 ナナリー、と彼の妹の名前を小さく反芻した。思い出すのは兄の亡骸に泣きついていた彼女。
 多くのものは悪政からの解放と悪逆皇帝の死に喜びあっていたが、カレンはナナリーが嗚咽を漏らして泣いていたことを知っている。
 それから直接会っていない(あのパーレドが果たして直接と言えるのか定かではないが)カレンとしては意外だった。
 それまでのナナリー像も、お飾りとしての総督或いは兄に愛情を注がれている妹の姿しか思い浮かばない。
 キャンドルも直接ナナリーから手渡されたものではないので、彼女が企画したものは思っていなかった。
 だが考えてみれば、ゼロレクイエムが1年とそれくらい前の話なのだから、合点がいく。兄にしがみついて泣いていた彼女と一致する。
 カレンは階段の下にある水面に浮かぶ蝋燭に目をやった。照明が落とされ月明かり以外に光が無いこの時分、その蝋燭は幻想的に限られた範囲を照らしていた。
「ナナリー、元気?」
 再びスザクの方を向いてカレンが訊ねると、スザクは瞳を小さく細めた。
「忙しそうだけどね」
 翡翠色の瞳には蝋燭は映っていない、とやはりカレンは思う。映っているのはきっと。
 彼女を傍から見ているのは事実だろうが、他人事のように取れる口調だった。
「それはあなたもでしょう?」
 カレンは小さく笑った。スザクはそんなことを言われるとは思わなかったのか、意外そうな顔をカレンに向けた。
「国交正常化交渉に国際会議、会見に地方訪問…他にもいろいろあるんでしょ?」
 カレンは指折り数えて、今度は苦笑した。一方スザクは、大半を言い当てられて複雑そうな顔だ。
 そこまで分かっているのかというそれと、知られるべきではないと言う危機感。
 仮面をかぶらないスザクはルルーシュも言っていたが顔に出やすくて、カレンは思わず顔が少し綻んでしまった。
 彼らは幼いころからの知り合いと言うから、ルルーシュは今のようなスザクの様子を見てきたのだろうか、と思う。それを知っていて、彼にゼロの仮面を託したのかとも思ってしまう。
 彼は、ルルーシュは、どれだけの願いと思いをこめて計画を遂行したのだろうかと考えずにはいられない。
 感情が交じったスザクの顔を見て、カレンは思わず考えてしまった。
「昔のゼロと少し似てるの」
 カレンがそう言うと、スザクはその複雑な表情はそのまま視線を水面へと向けた。
「君の言うゼロと今のゼロは違う」
 それは勿論、前者がルルーシュで後者がスザクと言うその正体が違うと言うこともある。だがその仮面の下の素顔を除いても、英雄と言う部分以外は異なる方が多い。
 今のゼロは闘いはしない。話し合いのテーブルで手助けをするだけ。決して上に立とうとはしない。双方の橋渡し役となるだけ。
 力を持ち合わせていても、行使することはない。
 以前は何かを守るためと言い訳しながら剣を振るっていたスザクがこのような立場に居るとは、なんとも皮肉な話だが、だからこそ多くのものがその仮面正体を知らないのだろう。
「仮面の下なんて知らないわ。私にとってゼロはゼロよ」
 確かにそうなのだが、ゼロの衣装に枢木スザク――それを晒していると言うのに、そこまではっきり言われると流石のスザクも少し気が抜ける。
 正直、罵られると思っていた。
 それは守りたいものは同じはずなのに手を取り合えなかったあの頃とは違うと言うことなのだろうか。
 世界は変わる。人が幸せを求め続ける限り、良い方に。ルルーシュの言葉を借りれば、これもそういうことだろうか。
 スザクは蝋燭を目で追う。その表情は、いつの間にか穏やかなものに変わっていた。
「あの日のキャンドルは君なんだろう?」
 自分の言葉に驚くカレンをよそに、スザクは誰よりも明日を願った友を思う。


人に自由があるのなら、君の理解者が居てもいいと思うんだ。

 
END

*Postscript*
冬至にもクリスマスにも間に合わなかったんだぜ…!駄目すぎるorz
最後は微妙に会話が噛み合っていませんが…ゼロスザクってこんな感じかと(どんなだ)
カレンはこの場の雰囲気でスザクが知っていると悟ったとか補足してみます…。笑
最後は前回に模して終わらせてみました。

'09/12/30