C.C.は部屋を出ると、小さく息を吐き出した。扉が背後で無機質な音を立てて閉まった。 2009/12/30
別にスザクとの会話で気疲れした訳ではない。そんなものは数か月前かつてC.C.が賛同した計画をあの男が否定し、ゼロレクイエムを計画した時点で捨てた。壮大でひとつのミスも許されないその過程でいちいち気を揉んでいては神経がどれだけあっても足りたものではないからだ(もっとも、最近のC.C.はそのような性格ではないが)。
その溜息はこれから向かわなければならない場所があるからだ。あることを確認するために。自分の憂いが余計なことであることを確かめるために。
全く、私も変わったものだなと己の足取りが重いことに気がついて、自嘲する。もう同じ過ちを繰り返すわけにはいかないと決意して契約したのはほんの数年前だ。だが、自分の願いと相反すると分かっていてもそう思ってしまう。
言葉は悪いが、C.C.はルルーシュに死んでいて欲しいのだ。
忠義の塊とも言える騎士にそのことを頼んだときは些か妙な顔をされたが、それでもジェレミアは了承してくれた。
ルルーシュの遺体をどこか人目の付かない場所に安置して欲しい。その場所を教えてくれと言うのは、生前付き合いの長かった人間としては普通のことかもしれないが、何もしないまま暫く放っておいてくれ言ったのは流石に何かあるかと感づいたようだった。翻弄された経験のある彼はそれを悟ったのか、特に深く突っ込んでは来ることはなかったが。
計画が進むにつれC.C.が懸念していたことは、スザクはおろかルルーシュでさえ知らない。C.C.も口に出すことは一切なかった。言えば彼らの計画に水を差すことは分かっていたからだ。ゼロレクイエムはルルーシュとスザクが死に、世界が明日を迎えることに意味がある。それをC.C.の懸念ひとつで台無しにして良い筈がない。
だがそれは、計画が成就した今、放っておいて良い問題ではなくなっている。少なくともC.C.にはその責任がある。
C.C.は廊下を曲がって出口に向かう。この可能性が思い過ごしであって欲しいと願いながら。
*
木を隠すなら森と言うが、それはまさにこのことだ。
ジェレミアから知らされた場所はナリタ連山。ナリタはあの攻防戦以来、慰霊地の色を強く残しており、ルルーシュが直轄領としてからもそれは変わらなかった。
要するに、遺体を運ぶことになんの不思議もないわけだ。皇帝暗殺の歓喜の混乱の直後となれば猶更である。
そこが人目に付かない洞窟だと地図で場所を示された時は、一体何の皮肉かとC.C.も少し思ってしまった。まさかルルーシュに本名を晒すことになったあの場所に再び足を運ぶとは思ってもみなかったのだ。
彼は数日だろうと言っていた。ゼロレクイエムの後処理――計画の全てを葬り去る仕事が彼には残っている。スザクはゼロとして動かなければならないし、他に計画を知っているロイドやセシル、咲世子は牢屋の中だ。最後の最後の残務処理をルルーシュはジェレミアに任せていた。
と言っても、大抵のものはルルーシュが生前に処理していたので然程時間は掛からない。彼はそれと己の身支度を整えた後、彼を埋葬すると言っていた。C.C.に与えられた時間はそれまでだ。
同じことでなければ良いが。と、またらしくない心配をしていたことに気付いて小さく溜息をついた。気が向かないのはここが平坦な道では無いからではない。
もしかすると、自分は期待しているのかもしれない。
目の前の男に死んでいて欲しいと思いながらも、究極のところはやはり、目を覚ますことを望んでいるのかもしれない。
C.C.は、ルルーシュの遺体の傍で腰を下ろしてそんなことを考えていた。静かな場所に居ることも、暗い場所に居ることにもC.C.は慣れてしまっている。どれだけ高慢な人間でも嫌になるくらいの年月を彼女は生きてきた。
こんな思いは私だけで充分だ、と言い聞かせてルルーシュの顔を見る。安らかに眠っている共犯者。世界がギアスに翻弄されたと言うのなら、ルルーシュも同じだ。ルルーシュがブリタニアを憎悪するきっかけとなったのは母親が暗殺された事件で、それはシャルルとV.V.、マリアンヌの計画の過程で生じたことだ。ルルーシュが他人にギアスを掛けた代償として憎しみの象徴となることを選んだというならば、これ以上の代償をルルーシュが払う必要はない。
「私に同情なんてするなよ、ルルーシュ」
お前はいつだってやさしすぎるからな、とC.C.はルルーシュに問いかけるように言った。
お前が魔女と言うのなら、俺が魔王になれば良いだけだ。
ギアスという力を或いは力を与えたC.C.を恨み憎しむことはせず、そこから拓いた道は自分自身が生きてきたという証しだと言われたのは初めてだった。
そう、それだけで。
そのとき、ルルーシュの瞼が動いたことをC.C.は見紛いだと思いたかったのだった。
ゼロスザクを軸にするといいつつ、早速寄り道ターン(爆)
この続きがAFTER FINALの2なの、かも。
次はもう少し寄り道して軌道修正です多分。