04.Tremendous Emperor

「要するに」
 ルルーシュは忌々しげに、傍で突っ立っているC.C.に視線をやった。
「あの時からこうなることを知っていたわけか」
 最後の麦の束を荷台に乗せ終えると、ルルーシュは上から覆うように布を掛けた。荷馬を使うなど現代の科学技術からすれば随分と古典的だが、文化自体が消滅したわけではない。大都市から離れた片田舎では、まだまだ利用される運搬手段である。
 慣れない作業で、かつルルーシュがあまり得意ではないと言うことは知っているはずなのに、見ているだけで手伝いもしないC.C.にルルーシュは若干の苛立ちを覚えたが、そのことは口にしなかった。C.C.の高慢な態度は今に始まったことではない。
 鼻から手伝うつもりなどないのか、格好も田舎よりは都会で見かけそうなものである。
「少し違うな。可能性があったと言うレベルだ」
 肝心な単語が出てこないのは、周囲を気にしているからだ。何とも異色な組合せのふたりが妙な会話を繰り広げていたと言う噂は良くない。田舎ほど早く広がるところは無いし、何より今後の生計に直に影響する。彼らが生計を立てるには、信用と言うものが欠かせない。
「だから確認に来たと?」
「そうだ」
 C.C.はあっさり答えて、荷台に乗りこんだ。ルルーシュは訝しげな顔をするが結局そのまま御者台に回った。
 麦わら帽子を被って手綱を握る。空調設備も影もない道中は、帽子が無いと堪える。帽子の内側から両側面を覆うように垂れ下がるタオルは、日焼け防止と素顔を隠すためだ。在方と言えども、素顔を堂々と晒すわけにはいかない。ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアは世界統一を成し遂げたブリタニアの皇帝だったのだ。ルルーシュが過去を捨てても、事実は残る。
 道中をともにするなら、隣に座って話し相手にでもなれば良いだろうと、長い旅路の味気なさを実感してそんなことを思ったが、ルルーシュはそれを否定した。
 出会った時から、我侭で自由奔放な性格だったではないか。ルルーシュが少し言ったところで、おいそれと首肯してくれることはない。
 まぁ、本人が一人の時間に飽きたら望まずともそうなるだろうと、ルルーシュは麦の穂と一緒に乗っている藁を下敷きに転がっているC.C.を横目に小さく溜息をついた。
 コードを継承したと言う事実を突き付けられたとき、一体何の厭味かと思った。これを押し付けられた可能性を考えるならば、黄昏の間の時しかない。最後の最期まで碌でもないことをしてくれたな、とルルーシュは思った。しかしC.C.はからかい気味ではあったが、最後の孝行だったのだろうと言う。それは孝行ではなく余計なお世話と言うのだ。
 ルルーシュは、溜息を吐いた。そんなことを今更考えても仕方が無い。
 すると、荷台が大きく揺れたのでルルーシュは後ろを向いた。
 お世辞にも、良いと言える代物ではないのだ。物を運搬することを考えたら、お金を掛けるのは荷台ではなく荷馬の方だ。
 少しくらい気を使え――そうルルーシュが口にしようとした刹那。
「王の力はお前を孤独にする。ふふ、少し違っていたか?なぁ、ルルーシュ」
 C.C.がそんなことを言ったものだから、ルルーシュは開きかけていた口を閉じた。
 やがてそれは小さな綻びに変わる。
 確かに、ギアスと言う力を手に入れて残ったのは孤独だけではない。
 ルルーシュは、再び前を向いた。その先には真っ直ぐに伸びた農道がどこまでも続いている。
「いや、大分の間違いか?それとも――」
 暫くC.C.の言葉に何気なく耳を傾けていたが、それが明らかにからかい口調だったので、ルルーシュは遂に口を開いた。
「C.C.」
「なんだ?」
 C.C.が笑っているのは、ルルーシュが予想通りの反応をしたからだ。
 ルルーシュの眉間に皺が寄る。
「それより次の町はまだか?私は腹が減った、ピザを食べさせろ」
「無茶を言うな」
 即答。財布の紐はルルーシュが握っている。
「なら作ればいい。生地の原料は小麦粉だ。私の下にある麦を粉にすればいいだろう?」
 馬鹿なことを言うな、とルルーシュは一蹴した。取引する量は決まっている。
 当然、差し引くようなそれを見積もってなどいない。
「お前に言われる筋合いはないな。無茶と馬鹿を最後にやったのは誰だ?」
 C.C.の目的はピザではなく、暇つぶしなのかも知れない。
 筋合いがあるかどうかは兎も角、ゼロレクイエムがかなり危険なことであったことは確かだ。現実から度が過ぎたことは自覚していたし、社会的常識から外れているからこそ、今の世界が成り立っているのだとルルーシュは思っている。
 そうするとC.C.の言葉は否定できないのだ。
 まったく、この調子が続くと考えるだけで先が思いやられる。
 溜息をついて気を取り直し、ルルーシュは手綱を握り返したのだった…。

ブリタニアの歴史を見れば、シャルルよりも――しかもあの短期間で――ルルーシュが成したことは、大きなことかもしれない。
だが、有史をたどれば知られていないだけで、そのようなことが実際何度かあったのかもしれない。事実、ゼロレクイエムはその道をたどる。
「心配はしていないのか?」
 C.C.がやはり空を見上げながらルルーシュに聞くと、彼は笑ったようだった。
 スザクとナナリーをと言う主語は、彼らの間では既に不要だ。
「敢えて言うなら、本が分厚くなり過ぎることくらいだな」
 ルルーシュは、彼らを信じている。そうでなければ、スザクにゼロを託したりはしない。
「本?―――あぁ、伝記のことか」
 世の英雄であればあるほど、周囲の人間はそれを残したがる。
 C.C.は合点したようだったが、一方で指摘した。
「お前は余計なことを考え過ぎだ」
 まったく、お前は優し過ぎる。と思ったのは心に仕舞っておく。
「だから”敢えて”だと言っただろう」
 ルルーシュの言い訳はC.C.には聞こえていない。
 C.C.は楽しそうに笑って、空を眺めていたのだった…。




2010/02/01
真面目に書いてるのに、ネタにしか見えない件(共通点→中の人)苦笑
タイトルはレクイエム『恐るべき御稜威の王』より。
これで寄り道終了です……多分←