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悪逆皇帝。魔王。悪魔。一体どれだけの代名詞で語り継がれていくのだろう。 神聖ブリタニア帝国第99代皇帝、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア。 帝国の歴史を語るには外すことの出来ない人物だ。勿論、その色は芳しくない。 その彼に、生涯仕えた人間がいる。ラウンズを超えるラウンズ、ナイトオブゼロ・枢木スザク。 彼もまた、歴史に名を残すことになる。それは主に次ぐ、良くない色で。 だがその一方で、多くのものが本当の目的を知らない。 それによって、彼らの死から、世界のあり方が変わったということを知る者は少ない。 ゼロレクイエムと言う近い将来消え去りうる言葉に隠された真実は、その立役者が二人の少年だったと言うことは、開けられることのない箱の中に仕舞われていく。 ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア。 枢木スザク。 黒く塗られた姿でしか語られることが無いのは、それもまた彼らの計画のうちか。 * ぶるぶるとデスクに乗せてあった携帯が振動した。液晶画面は裏返しになっていて相手は分からないが、発信相手はごく限られている。ナナリーか、シュナイゼルか、それとも……。いずれにせよ、仮面の男ゼロという存在であるスザクが地声で話すわけにもいかず、変声機能の付いたマスクを付けると、画面に目をくれる前に通話ボタンを押した。 「はい」 相手はその声に少し戸惑ったようだった。いやそれは飽くまでスザクの推測の域で、本当に電話の向こうの人間がそれだったとは分からない。しかし声が発せられるまでにたっぷりと数拍あり、ナナリーやシュナイゼルにしては妙だと思うところではあった。 「……枢木スザクか」 その刹那、スザクの背筋がぴんと伸びた。ゼロの正体を知っていたからという訳では決してない。その声の主に驚きを隠せなかったのだ。 「C.…C.……?」 その人の名前とはかけ離れた頭文字だけの少女を、スザクは知っていた。知らされた、と言う方が正しいのかもしれないが、ルルーシュとスザクの行動の裏に隠されたゼロレクイエムを知っている数少ない関係者だ。もう彼女と無関係、知らされたなどという一方的な言葉では済まされない関係だろう。 自然と携帯を握る手に力が籠る。彼女が連絡を寄越すなど一体何事か。 「通信傍受は無いが、手短に用件を言う」 C.C.は一度そこで言葉を切った。相変わらず人より感情の欠けた声音だと思う。 「お前たちの始まりの場所へ来い」 「始まりの場所……?」 スザクは顔を顰め、言葉を反芻した。だが既にその時には通話は一方的に切られていて、無機質な電子音が繰り返し響いているだけだった。スザクは終話ボタンを押したが、腑に落ちずに暫く考え込んだ。 日時も時間も彼女は指定しなかった。ましてや場所さえ、曖昧な表現。 それは、蝉の鳴く夏の日のことだった。 * その電話の内容を知っていたかのように、ナナリーが休暇を提案してくれたのはいつのことだったか。ゼロレクイエム――ルルーシュの死後、仮面の英雄として各地を駆けずり回っていたスザクにナナリーは告げた。 「予定が立て込んでいるので、直ぐにとは言えません。ですが誰にでも息抜きは必要です、ゼロ」 ナナリーはこの地位に就いてから、スザクをスザクと呼ばなくなった。それは総督としてエリア11に赴任してきた時とは大きく違っていた。彼女はまた、ゼロの素性を知っているにも関わらず最愛の兄の死について一切スザクに訊ねることは無かった。だからスザクも自ら吐露することは無かったが、時々見せる彼女の哀愁の表情を見るともしかしたらナナリーは全てを知っているのかもしれない、とスザクは思っていた。 そして。 スザクは足早に目的地へと向かっていた。旧エリア11――――日本。スザクの母国であり、近代最も資源に恵まれた土地であり、それ故に歴史に翻弄された国。 彼女は言った、「始まりの場所」だと。 彼女は言った、「お前たちの」と。 日差しの強いあの夏の日。幼い自分と、一国の皇子が、友達が。登ったあの場所で見たものは何だったか。 雲ひとつない空を隠していたのは、ナイトメア輸送のためのVTOL機。上陸したのは、人型自在戦闘装甲騎。 ブリタニアを壊す――――母国の破壊を決意した少年。 それを聞いたのは、敗戦した直後のことだった。父親を殺したスザクが、間違っていると彼に言えなかった時点で――いや、父親を手に掛けたあの日から、全ては決まっていたのかもしれない。 使い古されたズボンに、着回されたTシャツ。その上に薄青い上着を羽織って、スザクは降り注ぐ光の主を手をかざして仰ぎ見た。南の空からの直射日光は、酷く明るくそして厳しかった。サングラスを付けたのは正解だったかもしれない。無論それは彼が死んだはずの枢木スザクと言うことを悟られまいとするためなのだが、見る人が見たら一目瞭然の、とても変装とは言えない格好だった。 正直に言えば、スザクは確信が持てなかった。彼女の言ったその場所が、今目指している目的地であるのかということ、そして今日と言う日が正しいのかということに。スザクが今日を選んだことには理由はあったし、彼女の――C.C.の言葉で真っ先に思い当たったの場所だった。しかし、である。 それに彼は、どうしてC.C.があのような連絡を寄越したのかが全く分からなかった。戸惑いの最中に用件だけを告げ、一方的に切られた電話。それはスザクが知っているC.C.像からも然して外れたことではない。だがそれゆえに、C.C.がそれをスザクに伝えた理由が分からなかった。何か理由はあるのだろう。しかしそれは何か。 彼女からのそれを最大限に思い返してみたが、やはり出てくる情報はそれだけだった。スザクはそのまま、足を勧めた。目的地はもうすぐ。 ふと、自分と同い年くらいの少年の姿があることに気が付いた。 パーカーの付いた青い服。全体がその系統で統一され、帽子を被っている。そこから漏れる艶のある黒色の髪にスザクは覚えがあった。それは彼が、この手で殺したはずの――― 「ルルーシュ……?」 だが彼は無意識にその名前を呼んでいた。 |