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「何ですか、これ……」 生徒会室に入るや開口一番、半ば唖然とした表情でそう訊ねたのはカレンだ。カレン・シュタットフェルト――否、今は紅月カレンと言う名でアッシュフォード学園に通っている。 「見て分からない?花火よ花火」 床に半ば敷き詰められるように散らばるそれらから視線を上げて、かつての会長は悪戯っぽく笑う。 「いえ、そういうことでは無く……」 カレンはそれを否定したが、ミレイの耳には届いていないようだった。もうこんな時間、と時計を言うなりそんなことを叫んで、状況を呑み込め切れないカレンに組まれていた空の段ボール箱を半ば押しつけるように渡した。 「中庭までお願い。行けば分かるから」 「はぁ……。」 帰ってくる頃には恐らく箱の中は花火で埋め尽くされているのだろうが……どうしたものかと思いながら漏れたのはそんな生返事で、流れでうっかり箱まで受け取ってしまっていた。カレンにとってミレイは今も昔も「会長」であることに変わりはない。しかしそれは飽くまでカレン自身がそう思っているだけのことであって、カレンも生徒会に所属はしていないし、彼女も学園を卒業し今はアナウンサー事務所に籍を置く身だ。まさか、一日生徒会長に戻ってイベント開催!なんて言い出すこともなかろうに……と考えたところで、それを完全否定出来ないことに気が付いた。有り得ないことでは無いので、そう信じることにする。だがここまで準備が進んだ状態で、加えて今更ミレイの思惑に逆らうことなど出来ず、あれこれ動くミレイを横目に一度嘆息すると、カレンは大人しく中庭へと向かった……。 * 生徒会室と中庭を何度か往復するうちに、辺りはすっかり暗くなっていた。日照時間こそ長くなりつつあるが、まだ少し肌寒く季節特有の暗さがあった。部活動などを終え学生は帰寮したため、職員室と学務課、生徒会室を覗いて明かりが付いていないことが、余計にカレンにそれを感じさせたのかもしれない。 やれやれと椅子に腰をおろして間もなく、扉の電子音が聞こえてカレンは視線をそちらに向けた。そこにいたのは、小柄で私服姿のだが良く知る顔の少女だった。 「……ニー、ナ……?」 カレンは思わず立ち上がった。彼女と顔を合わせたのは、ブリタニア第1皇子と天子の婚儀の際、シュナイゼルに手を取られて現れたあの日が最後だろう。インヴォーグの研究チームが何とかと近くにいたブリタニア人が噂していた気がするが、詳しくは知らない。 だがあの日とは明らかに状況は変わっていて、しかしそれは学園にいたころの彼女に戻っているわけでは無かった。 「カレン……」 カレンと視線が合った刹那、ニーナはばつが悪そうに俯いた。それは彼女がブリタニア人と日本人のハーフで、かつては後者の血が混じっていたことを隠していたからか、それともゼロの正体をともに知るものだからか。 ブリタニア人以外への嫌悪が完全では無いにしろ払拭されつつあるニーナだったが、どちらの血も引くカレンにはどう接したらいいのか分からなかった。ゼロの、ルルーシュの真意を知っていると思えば猶更。 それはカレンも同じだった。 「ニーナ!久しぶりー」 その二人の間を取り巻く空気を薙ぎ払うかのようにリヴァルは明るい声を上げると、ベランダに出ていたミレイに彼女の来訪を伝えた。ホント?とミレイはベランダから顔を出す。 「よーし。これで揃ったわね」 にっこりと彼女は笑うと、皆をベランダに出るように促した。揃ったところで、並べられたそれに次々と火を付けた。開花を出し惜しむような音が鳴って、やがて爆発音とともに空に花を咲かせた。次々とそれは打ち上げられて、カレンは我を忘れて見入ってしまった。 同じ爆発音でも、かつて彼女が耳にしていたそれとは違う。同じものでも使い方を変えればこんなに綺麗に、人を感動させるものになり得るのだとカレンは思った。そしてここが戦場では無く、平和な場所であるのだと改めて思わせた。 「あの…どうしてこんな時期に花火なんですか?」 夜空に花開くそれを見つめながら、カレンは隣のミレイに訊ねた。単なる花火ではない、何か意味のあることなのだろうと思わずにはいられない。ミレイは彩られた空に視線を向けたまま言った。 「それがルルーシュとの約束だから」 「ルルーシュ……」 ミレイはゆっくりと目を伏せた。カレンと考えるところは同じだったのかもしれない。 神聖ブリタニア帝国第99代皇帝、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア。 ルルーシュ・ランペルージと言う名でこの学園に通っていた彼。生徒会副会長を務めていた、彼らのクラスメイトで友達。 カレンにとっては共犯者でもあった。ブリタニアに対抗する組織黒の騎士団の長、ゼロ。 ブリタニアを憎んでいた彼が皇帝の座に就いたとき、思った。――――どうして。 だがそれは、それにはゼロレクイエムと言う名の目的があった。憎しみの全てを自分に集め、それを背負って死ぬと言う、世界を明日へと歩ませるという。ミレイはそれを知らない。だが、こうして花火を上げてくれている。 「ルルーシュにスザク、ニーナ、シャーリー、リヴァルにロロ、そしてカレン…あなたも。 またみんなで花火を上げよう、それがルルーシュとの約束」 集まれるのは私たち4人だけになってしまったけれど、とミレイはどこか哀しそうな表情で笑った。 「会長は……ルルーシュを信じるんですか?」 別に聞いたところでどうこうするという訳では無かった。信じない、と言ったからと言ってカレン自身が知っていることを話すつもりはなかったし、信じると彼女が言ったとしてもどうしてと訊ねるつもりは毛頭なかった。真の目的を知る者が極力少ないこと、それが彼の願い。だからカレンはあの時、仮面の中がスザクだと分かっていて「あれはゼロです」と言ったのだ。彼のそれを尊重するのは今も変わらない。 「あなたはどうなの、カレン?」 「え……?私、ですか」 逆に訊ね返されるとは思わず、カレンは口籠った。何と言えばいいのやら。 暫くえっと、その、と続けていれば、彼女の答えを聞くつもりなどなかったのか、そうね、と語り出した。 「ルルーシュが何があって、何をしようとしたのかは知らない。だけど……ルルーシュ・ランペルージで過ごしたあの時間は、あの言葉は本物だった」 彼にとってルルーシュ・ランペルージと言う名は、存在は偽りでしか無かった。皇族であることを隠し、生きていることを隠し、嘘をついて。カレンも同じだった。だが、その中で生まれた本当もある。 「そうですね…」 カレンは頷いた。あの時、全てが終わったら一緒にアッシュフォード学園に帰らないかと提案されたとき、断ることが出来なかったのはしなかったのは、それが「本当」の場所だったから。 花火はまだ続いている。ベランダにあったテーブルには、戻ることの出来ない日々の写真が2枚並んでいた……。 |