「お疲れ様です」 労いの言葉とともに、淹れた珈琲を置く。 決して良い品とは言えないが、少なくとも兵器に重きを置く予算編成ではなくなった。 「あぁ、すまない」 ロイはリザからそれを受け取ると、何も入れずにそのまま口に運んだ。 かつての彼は、砂糖を入れて飲んでいた。 変わったな、とリザは改めて思う。 「――どうしてもっと早く戻ってきて下さらなかったのですか」 責め立てる訳じゃない。 だけど、東方で不可解な鎧が地下から現れた時くらいに戻ってきて欲しかった。 きっとあなたなら、適切な対処が出来るのにとリザが思ったのは事実だ。 「敬語はやめてくれ。私は君の上官では無い」 傍に立つリザに、ロイは静かに言った。 「私にとっては、今でも私の上官です」 断固としたそれに、ロイは微笑した。 そういうところは変わらないな、と思う。 「元気そうだな。これで安心して北に戻れる」 不安だった訳じゃない。 だが、自分のことはお構いなしに無理をするから、心配していた。 「戻らないで下さい」 「私の勤務地は北だ。事件が片付けば、私が中央に居る理由もあるまい」 ロイはカップを受け皿に戻して、リザを見据えた。 「大佐が行くとおっしゃるのなら、私も北へ行きます」 「君の担当は中央だろう?ホークアイ中尉」 わざと突っぱねるような言い方をした。 「私が北を志願すれば良い話です」 それをやったのがロイだ。 「駄目だ」 「どうしてっ」 今にも泣きそうなリザを見て、君らしくもないとロイは思う。 ―――いや、あのときも君は泣いていたか。 「今までの苦労を水泡にするつもりか」 「大佐と居られるのならば構いません」 望むものはたったひとつ。 リザの頬に涙が零れた。 それでもロイは、首を立てには振らなかった。 「君の幸せを考えると、来るべきではない」 「そんなこと少しも嬉しくありません!」 言ったら怒るだろうが、叱咤の声さえも懐かしいと思う。 「―――もう、離れ離れは嫌なんです」 初めてかもしれなかった。 君が、私情ではっきりものを言ったのは。 「中尉…」 続きの言葉は、扉を叩く音に遮られる。 リザが涙を拭ったのを確認して、どうぞと答えた。 「グラマン中将。これは直々」 立って敬礼すれば、そんな改まる必要は無いと手を振った。 渡された封筒を不思議に思う。 中には、羊皮紙の紙が一枚。 「君に異動命令が出た。明後日より中央司令部勤務ね」 「中央…司令部、ですか」 軍事政権は終わりを告げたが、依然として、中央司令部の役割は大きい。 「先日の事変の功績が認められ、会議で決定したのだよ。それから君、今日から佐官」 まるで大総統時代に戻ったような人事だ。 「お言葉ですが将軍、私は一度国家資格を返上しております。その私に今回の件だけで、佐官と言う地位は如何なものかと」 兄弟と両側から扉を壊した。二度と扉が開くことは無い。 事後処理が終われば、中央に居る必要は無い。 「今、国家錬金術師の制度は存在しない」 「しかし――」 反論する暇は与えられない。 「つまり、君は期待されている」 将軍は、ロイの肩をぽんと叩いて、踵を返した。 「しかし、君も暫く離れていて不便だろうから、わしの孫娘を下につけよう」 退出際に、そんなことを言った。 笑み含んでいたのは、思い違いだろうか。 「大佐」 振り返れば、きりっと敬礼した君がいた。 ―――あぁ、そういうことか。 全てを理解する。 「明後日よりお世話になります、リザ・ホークアイと申します。お見知りおきを」 END *POSTSCRIPT* プロトタイプを見ながら更改。しかしいかんせん内容が飛んでしまってる私(苦笑) グラマン中将って名前出てきたっけなぁ…とか色々。 エドとの再会で立ち直ったようだけれど、1期の大佐は、 事が終わったら私が中央に居る必要は無いとか行って帰りそうだな、と。 2006.02/ 2010.06 |