FULLMETAL ALCHEMIST Roy x Riza Novels-10.



「何ですか、これは」
 場所は中央司令部。時刻は午後5時。勤務交代で、常勤と夜勤が入れ替わる時間だ。
 引き継ぎなどで、少し騒がしいと言えば騒がしい時間帯だろうか。
 そんな時分でなくとも、いきなりトランクを渡されたら訊ねたくもなる。
 大きさと言えば、鋼の錬金術師が持っているそれと同じくらいだが、エドワードは少し前に報告書を送ってきてそのままだ。中央には居ない。
「開ければ分かる。君の服だ」
 トランクを手渡した張本人―――ロイ・マスタングは、リザに答える間も忙しなく机上を片付けている。
 そういえば、普段より少し司令部に人が多いのは気のせいだろうか。
 開ければ、明らかに女性のそれが何着か入っている。
「………。」
 しかも、私服ではなく式服だ。リザが訊ねようとしたときには、もう彼は片づけを終えていて、執務室を出ていくところだった。
「好きな服に着替えたまえ。30分には出るから、それまでに」
 何故、と言う一番大事なところを言わず、彼はそのまま執務室の扉を閉じた。

☆★☆★

 着替え終えると、それを見計らったようにノックされた。
 はい、と答えると、やはり答えたのは彼だった。
「着替えたか?」
 その質問を肯定して、リザは扉を開けた。
 彼は、黒いスーツを身に着けていた。
「似合っているよ、中尉」
 普段は、全く縁のない服装なだけに、見られると気恥ずかしい。
「あ、ありがとうございます」
 服も、と言うと彼は微笑した。
「貴重な君を見られるのなら、これくらい安い」
 さて、少し急いだ方が良いかとロイは時計を見て言った。
「―――これからどちらに?」
 プライベートならば、わざわざ司令部で着替えたりはしないだろう。
 だとすれば、潜入調査辺りが妥当だが、リザが訊ねれば意外な言葉を口にした。
「舞踏会だ」
 知ってはいるが、使わない部類の言葉である。
 舞踏会を開催すると言えば、上流階級辺りの話なので、極めて庶民(軍人)の彼女たちには関わりが無いのだ。
 だとすれば、ますます潜入調査の可能性が高くなるが、訊けば彼はそれを否定した。
「大総統主催の舞踏会に招待されている」
 何でも、還暦の祝いを兼ねているらしく、盛大にやるらしい。
 地方司令部からも高官は招待されていて、当然中央司令部も例外ではない。
 司令部内がせわしないのは、気の所為ではないかもしれなかった。
「大総統の意向が正直分からない」
 リザに一通り説明して、ロイは苦笑した。
「とても軍事国家とは思えませんね」
 夫人がどうかは兎も角、基本的に娯楽のようなものは好まない。自らの誕生日に一佐官 (と言っても大佐で国家錬金術師だが)まで声が掛かるような大々的な舞踏会を開くとは、珍しい。
「そうだな。それに私なら…」
 司令部を出て、通りを歩きながら、ロイはそこで一度言葉を切った。

大切な日は君とふたりで過ごしたいが

 続きの言葉は、リザの耳元で囁いた。
「な、何を仰っているんですかっ///」
 突然のそれに、彼女の耳はみるみる赤くなった。
「事実なのだが?」
 と、何事もなかったようにロイは言ってのけた。
「嫌か?」
「嫌とは言っていません」
 視線を合わせてはくれなかったが、即答だった。
「素直じゃないな」
 ロイは微苦笑を浮かべた。そういったところも、また惹かれるところなのだ。
「着いたら1曲踊ってくれるかい?」
 手を差し出せば、彼女は肯定の合図をしてくれた。
「私で良ければ」
 彼らの上では灰色の雲が広がっていたことに、リザは兎も角、ロイは気付いていないのだった…。


END

*POSTSCRIPT*
以前日記に上げたものを修正。
続きがあったりするのに4年経っても書けてない現在orz
ご察しの通り、次にはありがちなイベントが待っています(笑)
2006.04 / 2010.06