FULLMETAL ALCHEMIST Roy x Riza Novels-13.



「あー…やっぱり降って来たっスね」
窓の外を見て、上官に話しかける。右手には愛用の煙草。どうやら休憩中らしい。
そしてその上官はというと、随分と不機嫌そうな顔をして外を見やる。

――雨だ。

 上官――ロイ・マスタングはがっくりと肩を落とす。  雨と言えば、雪、風を差し置いてダントツトップに躍り出る「無能」の日である。
 少し前、彼の副官に「雨の日は無能なんですから、下がっててください」などと言われたのが胸にぐっさり刺さっているらしい。分かってはいたが、好きな女性に護衛されなければ外に出られないというのが我ながら恥ずかしい、とロイは心中こっそり思っている。
 そんなこんなで、彼の仕事の効率は何倍にも下がるのだ。
「何故、こんな時期に雨が降る」
 せっかく温かくなってきたのに、と言わんばかりの顔だ。
 断続的に雨が降るのはもう少し先の筈だ、と言いたいらしい。
「よくあることじゃないスか。秋雨じゃないですし、すぐ止みますよ」
「…そうか」
 すぐ止む、と聞いたものの、彼の腕がさらさら動くことは無く。休憩時間が終わっても様子が変わらず、椅子の背もたれに背中を預け、利き手でペンをくるくる回していた。
 何の手違いか、そのペンが宙に浮いた。それはデスクを越え、扉の前の床へと落ちる。
 ハボックがそれを拾おうとするや否や、扉が開いてリザが拾った。
「大佐」
 そのあと彼女は一泊おいた。リザが何を言うのか、既に分かっている。
「休憩時間は終わりましたよ?帰りは送って差し上げますから仕事してください」
 また別の書類を持ってホークアイは姿を消した。
 この一言で誰かの上官は仕事をせっせと進めたことは言うまでも無い。

*

 ハボックの言葉どおり、雨は暫くすると止んだ。彼らが帰宅する頃にはやや曇っているものの、西のほうは明るかった。
「送ってくれるのだろう?」
 にっこりと満面の笑みで本日最後の書類を渡し、彼は言った――。

 外は風が半端なく吹いていた。北風ほどではないが、その風はやや冷たい。出勤前の判断でコートを着てこなかったことをリザは少し後悔した。
 彼女の肩に黒いコートが掛かる。それはリザより少し大きめで、けれど温かかった。
 持主である彼にお礼を言うと、ありがたくコートを受け取った。
「中尉」
 何か話しかけたかと思えば、ロイはリザの髪に手を伸ばしバレッタを外した。ついでに束ねていたゴムも解いて髪を下ろした。
「た、大佐!――何を」
 返してくださいといわんばかりに手を伸ばすリザを見ながら、ロイはバレッタを胸ポケットにしまった。 そして「外していたほうが可愛いから」と言って、彼は再び歩き出した。
「…返していただけませんか」
 ロイのやや後ろを歩きながら、リザは言う。
 解かれた彼女の髪は風に揺られるままに動く。それが時には視界を隠す。
「風の所為で髪が飛ぶのです」
 その言葉を聞いて、ロイは立ち止まった。
「ならば、私の隣を歩けばいいだろう?」
 確かに彼の右側を歩けば、直接あたる風は少ない――が、そういう問題ない。
 リザがそれを言いかけたとき、ロイはふっと微笑してこう言った。
「暫く、おあずけだ」
 着いたら梳いてあげるから。
 どこに、とは言わなかった。でもそれくらい――分かる。
 バレッタも、そして彼女本人も素直に返す気は無いらしい。

 そう悟ったリザは気付かれないほど小さな溜息を落として、彼の隣を歩き始めた…。


END

*POSTSCRIPT*
東の国じゃないし、多分梅雨はないよなぁと思いつつ(笑)
根拠は無いけどなんとなく、中尉のバレッタは公私のオンオフだと思ったり。
2008.03 / 2010.06