扉をノックする音がして、リザがそちらを向くと、入るぞ?と訊き覚えのある声がした。 全ての準備が整い、あとは時間を待つだけということで、係員には席を外して貰っていた。 ひとりになって、心を落ち着けたい。そんな気持ちがあったからだ。 「どうぞ」 すると、やはりリザの想像した通りの人が、控室に入ってきた。 季節は初夏。 天気は晴れ。 風は穏やか。 記念日にはこれ以上にない相応しい日だ。 リザが纏っているのは軍服では無い。 ロイが身に着けているのも軍服では無い。 純白のドレスと黒のタキシードだ。 「大佐」 リザが言えば、ロイは微苦笑した。 「今日まで階級で呼ぶことはないだろう?」 長い間、階級で呼び合うことが多かったのだが、式直前にそう呼ばれると少しへこむ。 今日から同じ道を歩くと言うのに。 「すみません、つい…」 恥ずかしそうにリザは顔を逸らしてしまう。そんなところも愛おしいことに変わりは無いのだが、今日は少しばかり困る。 話が出来なければ、彼女の部屋に来た意味がない。 「ああ、まぁ…分かればいい」 頬を掻いて決まりが悪そうに言えば、リザは赤らめた顔でちらりとロイを見た。 それを見てロイはひとつの推測を立てる。 もしかして、君も。 「―――緊張しているのか…?」 その問いにリザは小さく頷いた。 左目が見えていたら、もっと早く気づけただろうかと思う。 自業自得でこれは報いなのだと思ってきたが、今は少し悔しかった。 傍にある椅子に腰掛け、ロイはそんなことを思う。 「貴方は?」 まだ恥ずかしいのか、リザは視線を合わせてはくれなかった。 感情は己への悔やみから、彼女への共感へと変わる。 「私も同じだ」 時間を持て余して君のところへ来たのだとロイが言えば、彼女は意外な顔を向けた。 「…貴方は緊張しないものだと思っていました」 「それは私も同じなんだが?」 互いが緊張を隠せない状態だったことが分かって、小さく噴き出してしまう。 「知らないこともたくさんありますね」 「そうだな。…だが」 ロイが一度そこで言葉を切ると、小さく笑った。 「君はこれから知ってくれるのだろう?」 同じ道を歩むとはそういうことだ。 いかなるときも、 愛し、支え、励まし合って 生きて行く。 「―――はい」 リザは先よりもずっと深く頷いた。 そこに、迷いは無い。 ロイは頷くと、近くのテーブルにあるバラの花束を一瞥した。 「それでは、バラの前で誓いのキスを」 そう言って、リザのヴェールを捲りあげる。 バラの言葉は永遠の愛。 或いは、あなたに相応しい。 「まだ本番では――」 何度か頭の中でシミュレートしているものの、実演となると気恥ずかしい。 「減るものでもないだろう?予行演習だ」 ロイは、優しく口付ける。 緩やかな風が入り込み、二人のそれを花束だけが見ていた。 今の二人に緊張の色は無い。 見つめ合って、くすりと笑うと遠くから声が聞こえてきたから驚いた。 どうやら目の前に居る本人は、捜索されているらしい。 「捜されていますよ」 「そうらしいな」 時計を見れば、そろそろ頃合いの時間だった。 「では、行こうか。マイレディ」 差し出された手を丁寧に受けて、リザは立ち上がった。 ふたりのこれからに、幸多からんことを。 END *POSTSCRIPT* シャンバラの後のロイアイ妄想。 こうなったに違いない!ということで。 アニメでも原作でも幸せになってくれと思って止みません(笑) 2006.07 / 2010.06 |