■02.執務室
中央司令部への異動が決まった。
彼の元で働く者は皆、来週から中央へと移る。
数年使った執務室の荷物を整理し、あとはそれを中央に運んで貰うだけだ。
その荷物も、先ほど少尉が運び出したのが最後の一つだった。
異動命令が出た時は、実感がなかった――と言うより、ヒューズ准将の件でそれどころではなかったのかもしれない――が、殺風景な執務室を見ると異動なのだと改めて思う。
「何か忘れ物でもしたか?」
背後から声が掛かって、リザは振り向く。
将軍への挨拶から戻ってきたロイが立っていた。
「いえ…少し昔を思い出してしまって」
「昔?」
イシュヴァール戦が終わってから一緒だから、随分と長い。
「私が大佐の補佐官になって、初めて異動したときのことです。覚えていらっしゃいますか?」
リザの問いに、ロイは忘れる訳ないだろう、と笑う。
「懐かしい話ではあるが」
「そうですね」
リザはもう一度、室内を見渡す。
随分前の話だが、あの時のことは、今でもよく覚えている。
「当時のことを思えば、これほど大切な存在になるとは思っていなかった」
もう、師匠の娘と父の弟子と言うだけの関係ではないことは自覚している。
「私もですよ」
恐らく一生軍に居る――苦笑交じりにそんなことを言っていて、彼を頼ることはあっても心の支えになるとは思わなかった。
二人揃って昔を思い出していると、階下から声が聞こえた。そろそろ駅に向かわなければ、列車に降り遅れてしまう。
「行こうか、中尉」
「はい」
名残惜しく、執務室の扉を閉めて階下へ向かう。
彼らが異動になるのはまた少し先の話である。
Date:2008.09.12 / 2010.05.28修正
文句は言わせん!付いてこい!辺りの話です。
互いに自覚していると良いなぁと思う今日この頃。