■03.屋上

「大佐、ここにいらっしゃったのですか」
 扉の開く音がしたので振り向けば、少し心配そうな顔をしたリザが居た。
「――中尉。どうした?」
「休憩の時間にもお戻りにならないので、どうされたのかと」
 ロイは懐中時計を開いた。少しだけと思っていたが、随分と時間が経ってしまっていた。
「いつからですか?」
 リザが執務室に居ない間に抜けてきた。サボっていたのでしょう、と言われれば認めるしかない。
「そうとも言うな」
「午後からはちゃんと仕事して下さいね」
 副官はあまり怒っていなかった。割と暇と言える状態だからかもしれない。
「何か見ていらっしゃったのですか?」
 屋上で、ぼーっと景色を眺めていたからだろう。ロイは先まで見ていた方に視線を向けた。
「東の街を見ていた」
 東方司令部の建物は、イーストシティの中ではかなり高い。
 だから、屋上からの景色はなかなかのものだ。
「晴れた日には景色がいいのだが」
 と言って、ロイは苦笑した。今日はあいにくの曇天だ。
 市内は兎も角、そう遠くまで見えない。
「もしかすると自分の未来が見たかったのかもしれないな」
 大総統になり、この国の在り方を変えること。民主制に移行し、軍備を縮小すること。
 私らしくないな、とロイはまた苦笑いした。
 その先は、今日のように見えないことは分かっていただろうに。
「自分の未来、ですか?」
 国のことを差すことが多いから、リザは意外に思った。
「例えば、君との明るい未来」
 ロイは隣に立つリザに身体を向けた。
 まるで、教会の前の新郎新婦のような立ち位置。
 リザは、そんなことを考えてしまった自分が恥ずかしかった。
「どうした?」
 急に目を背けた副官を不審に思う。
「何でもありません」
「そのようには見えないが?」
 遂には背中を向けてしまったリザを、ロイは後ろから抱きよせた。
「お見通しですか?」
「長い付き合いだろう?」
 それで、何で背中まで向けるんだとロイは言った。
 理由は何となく察しはつくが、背中を向けるまでする理由が分からない。
「言えません」
こうして、あなたの体温を感じてしまうのさえ、とは口が裂けても言えなかった。
「笑ったりはしないぞ?」
 とロイが言ってみても、リザは言えないの一点張りだった。
「何故?」
 せめて理由くらい、と思って訊ねたが、それはリザの目を見れば直ぐに分かった。
 言えば午後から自分が仕事にならないと切実に訴えていた。
「残業になるのは困る。そろそろ時間だ、戻ろうか。中尉?」
 楽しみはあとに取っておけばいい。その方が仕事も捗る。
 ロイはそう思って、リザとともに執務室に戻って行った…。



Date:2010.07.02
強制人体錬成の回(アニメ)の直後に下書き。
それゆえに、幸せ願ってる感が全開です(笑)