■05.優しさ
目的優先なんて口先では言っているけれど、人一倍情に厚いことは知っている。
人造人間に襲撃に遭った時は、放っておけば敵の追求を逃れられるのに、助けに来て。
重傷を負った、或いは生きることを諦めた部下を捨てることが出来なくて。
司令部に乗り込んだ時は、何かあったら君だけでも逃げろと言って。
エドワード君を、理不尽を呑みこめない子どものような扱いをするけれど、それは、彼をかつての自分に重ねているからだ。
「本当に度胸がありますね、ホークアイ中尉。少しでも情報を引き出そうって魂胆ですか」
ずるずると、背後で何かがうごめくのを感じる。
グラトニーに背中を取られた時よりも、ずっと恐ろしい。
冷たい汗が背中を行く筋も流れた。
「面白いですね。貴女、こちらの仲間になりませんか」
「冗談を。仲間ではなく都合のよい人間の駒が欲しいだけでしょう?」
銃は抜く気すら起きなかった。多少の劣勢ならばひっくり返す自信はあるが、とてもそのような差異では無い。
圧倒的な強さと言うものを、漠然と感じた。
無遠慮に巻き付いてくるそれは、気分が悪い。
だが、それは脅しであって、殺すつもりはないと思う。
今、ここで自分を殺しても相手側に何のメリットもないからだ。
大総統補佐は、事実上の人質。人質を殺しても、相手に火を付けてしまうだけだ。
逆に、枷が無くなった分、自由に動ける。
「そうでしょうか?彼は人柱候補ですよ?」
メリットは無いと言えば、自ら傲慢と名乗った人造人間は笑みを見せた。
「あなたたち人間は弱い。だから彼は貴女が死ねば扉を開く」
以前会った人造人間が言っていた。扉を開けた人間は人柱確定だと。
「―――弱い?優しさの間違いでしょう?」
人質の位置は、言い換えれば相手の寝首を掻けると言うことでもある。
リザは精一杯、平静を装った。
「それこそが、強さの裏付け――違うかしら?」
それを聞いて、もう一度傲慢は嗤った。
「似たことを、憤怒が言っていましたね―――優しさこそが強さの裏付けとは巧く言ったものです」
蠢いていたそれは、徐々に引いていった。
「口外すればどうなるか分かっていますね。仲間やマスタング大佐もただでは済みませんよ」
振り向いたときには、影とともに子息の姿は消えていた。
錬金術でも人間の成す技からもかけ離れたそれに、恐怖のあまりの幻覚かと思ったが、手首上の傷が現実だったと物語っている。頬にも擦過傷が出来ていた。
「――――」
長く息を吐いて、踵を返す。心臓の脈打つそれが早いことを自覚せずには居られなかった。
END
Date:2010.05.28
ホムンクルスと大佐の違いはそこなんだろうなぁ、と。
アルの言う同族嫌悪じゃないですけど、大佐もエドに共通点を見てるんじゃないかなって。
某作品の台詞に、やけにしっくりとして、ずっと書きたいと思っていたネタでした。笑