■06.銃

「―――何発撃った?」
 病室で、ロイがリザに訊ねた。
 いつのことを指しているのか、リザには分かっていた。
 人造人間―――ラストに対して、どれだけ撃ったかと言うことだ。
 正確な数は覚えていない。否、覚えていないと言うより寧ろ、
「持ち弾全てです」
 我を忘れて撃ち続け、全ての弾を使い切ってしまったと言う方が正しい。
 ロイは、黙ってそれを聞いて、質問を続けた。
「何故撃った?」
「人柱候補を一晩に二人殺すことになると言う言葉に、大佐が――」
 沈痛な表情のリザを、ロイは真っ直ぐに見つめた。
「死んだと思った、か?」
 つまりは、人造人間の言葉を鵜呑みにしてしまったということだ。
 頷いた瞬間、この馬鹿者!とロイに怒鳴られた。
「敵の言葉を信じて戦意喪失だと!?ホークアイ中尉ともあろうものが、聞いて呆れるな!」
 上官の言葉は最もだ。申し訳ありませんと言う言葉以外に見つからない。
「うろたえるな!思考を止めるな!生きることを諦めるな!!――軍人なら、私の副官なら、もっと毅然としていろ」
 正直、見限りの言葉が続くと思っていた。相手の言葉を軽々と信じてしまっていては、上を目指す彼を支えることなんて出来ない。
「はい」
「――もう一度訊く。何故、持ち弾全て、撃った?」
 人造人間は、銃を急所に撃ちこんだところで死にはしない。高い再生能力と特殊能力を持つ。
 事前にそれを知っていたと言うことを踏まえて答えろ、と言うことだ。
 先のそれが、軍人或いはロイの副官としての質問だったのだとすれば、今度はリザ個人の返答を求められていると言うことだ。
「気が動転しました」
「…他には?」
 人造人間への怒声と彼女の涙。それだけの情報があれば、リザの心境は容易に想像がついた。
 問題は、それ以外に銃を向けた理由があるかと言うことだ。
 くどいようだが、人造人間の身体能力云々と言う話では無い。
「―――あの人造人間に、負の感情を持っていました」
 それを憎しみ、或いは恨みと言うのかもしれない。
 大切な人を殺した人間に対する感情。
 ロイは、リザの答えに怒号を飛ばさなかった。小さく息を吐いて、リザを見た。
「以前君は言ったな?イシュヴァールのような思いをするのは自分たちだけで十分だ、次の世代に幸せを享受するために血の河を渡るのだと」
 内戦が終わったあと、軍服に袖を通して得意分野は銃だと答えたときのことだ。
 その思いは消えてはいない。
「それは、負の連鎖を断ち切ると言うことだ。分かるか?」
 そのためには、自分が裁かれることも辞さない―――この国の在り方を変えたいと願う彼の覚悟だ。
 彼の目的に賛同するのなら、同じ覚悟を持っていなければならない。
「―――はい」
「人を殺すなとは言わない。だが、憎しみを晴らすためだけに銃は向けるな」
 国の在り方を変えるため、誰かを守るため、には止むを得ないと思う。
 自分が願いを叶えるために歩く道は、険しい茨の道だからだ。
 本当は、銃など持って欲しくなかったと今更リザに言うなど、単なるエゴだとロイには分かっていた。
 だが、それでも、恨みを晴らすためだけに銃は持って欲しくは無いのだ。
「引き続き私の背中を預ける。精進しろ」



Date:2010.05.28
ご承知の通り、95話『烈火の先に』の影響を受けてます。
シンメトリーじゃないですけど、中尉もラストに対して、
少なからずそういった感情があって銃を向けたのではと思ったので。