■07.守りたい人

 執務室への廊下を歩いていると、東方司令部イーストシティには居ないはずの後ろ姿を見かけた。
 向かう先はどうやら自分と同じ。リザの予想は、推測から確信へと変わった。
 マース・ヒューズ。上官の親友だ。
 彼が扉の前で立ち止まり、リザが声をかけようかと思った矢先に彼の友人は気が付いて、軽く手を上げて見せた。
 訊ねなくても誰に用があって来ているか分かっている。リザは挨拶をして、執務室ではなく別の部屋を勧めた。
「申し訳ありませんが、大佐は会議中ですので、応接室にご案内します」

 ヒューズをわざわざ応接室に通したのは、予感があったからだ。
 大抵は(親バカ満載の)電話で済ませることが多い彼が、中央から東へと出向いた理由。
 軍の電話は盗聴されている可能性が高い。それは応接室であっても同じだが、フィルムなどで録画されない限り、自由が利く。
 謎の男による国家錬金術師殺害事件が記憶に新しい今、何か情報を持ってきた。少なくともその可能性はあると判断した。
 同僚を信用していない訳では決してないが、他部署の人間が来るかもしれないと言うリスクは回避するに尽きる。
「そろそろ終わる時分だと思いますので、もう少々お待ち下さい」
 お茶を出してヒューズにそう言うと、礼の言葉と共に、
「君は本当に敏いな」
と指摘を受けた。どうやら的中したらしい。
「…積もるお話もあるかと思いましたので」
 ヒューズは笑う。
「あいつとは付き合い長いからな」
 君が足を掻けてなければ死んでたぞ、と笑えるのは生きているからだ。
「大佐の護衛として、職務を全うしたに過ぎません」
「…だがやりくいだろう、あいつの下は」
 いつの間にか、彼の顔から笑みが消えている。
 その原因は女性関係だと理解する。
「個性だと認識すれば、そうでもありませんよ」
 諜報のために利用していると知っているから、特に気にする必要はない。
 そこまで考えて、自分が上官を意識している前提で話していることに気がつく。
「冷静だな」
「…ただの自己保身ですよ」
 背中にある破壊された錬成陣。自分の父の弟子。たとえ男と女と言う関係でなくても、彼と自分を結び付ける理由は、それで十分だった。
 口から出てしまった言葉に、少し驚く。
 背中の秘伝は2人だけの共有。そう思っていると言う自覚がある。
 ヒューズとは士官学校からの知り合いで、他の人間と一線を画す中なのは瞭然。どこまで語っているかは分からない。
 だから、自己保身と言ったところで、ヒューズがその真の意味を解するかを推測することは出来ない。
 本当は、自分を守りたいだけなのだと言うつもりなどなかった。
 彼を守りたいと言う理由を正当化したいだけの言葉だからだ。

「―――早く嫁さん貰えなんて言う必要なかったかな」
 そう言ったヒューズは微かに笑う。
 彼もまた、親友とその副官を見て感じるところがあるのだろう。
 前半が上手く聞き取れず、リザが首を傾げた刹那、扉が開いた。
 上官の親友を呼ぶ声で会話は遮られる。
 結局、訊ねることが出来ないまま、リザは部屋を後にした。



Date:2011.06.11
もし生きてたら一番じれったいのはヒューズさんだろうなぁ、と。
大佐の嫁=中尉と思っているに違いない…(笑)