■09.上官
田舎の天気はよく変わると言うが、イーストシティもまた、例外では無かった。
東では少々栄えた都市だが、中央と比べればその部類に入る。
そして今日も、晴天だった午前とは打って変わって、午後はしとしとと雨が降っていた。
「はい。エドワード君、タオル」
リザは、シャワー室から持ってきたタオルをエドワードに手渡した。
「ありがと」
エドワードはそれを受け取ると、顔から腕を拭って、肩に掛けた。
赤いコートは、ハンガーに掛けて吊るしてある。赤銅色に染まっているのは、雨を全身に浴びたからだ。
「それからこれ。身体も少しは温まると思うわ」
と、リザはココアをテーブルに置いた。身体を温めると言えばホットミルクを連想したが、エドワードは牛乳が天敵なので、それに変えた。栄養云々よりも、体温を上げることが最優先だからだ。
「ずぶ濡れだけど大丈夫?」
身体が冷えていないか心配だった。雨に当たれば体温は奪われるし、袖なしのトップスではこの時期寒い。
「平気、平気、これくらい…ぶえっくしっ」
言ってる傍からこのくしゃみでは、説得力も皆無だ。
「ほら、ちゃんと拭かないと…」
リザは、テーブルにあったもう一枚のタオルをエドワードに被せ、髪を拭いた。
まるで、エドワードは幼い子供のような構図だ。母親と言えるほど年は離れていないが、彼女は気を使ってくれているのかもしれない。
「――中尉はさ、大佐にもよくやってんの?」
エドワードが訊ねると、リザは意外にも驚いた顔をした。
「どうして?」
「いや、慣れてるつーか…それに、ほら、大佐ってこういうの無頓着そうだから」
毛嫌いしているようで、見ているところは見ている少年だとリザは思う。
「そうね。大佐は雨の日が嫌いだから」
雨の日は火花が出せない事実を論より証拠で証明してしまったのは、記憶に新しい話である。
「―――中尉は?」
瞬間、エドワードは訊いてはいけなかったことを訊ねてしまったような顔をした。あ、いや、なんとなく、とエドワードは取り繕うとしたが、あまりフォローになっていない。
「正直、あまり好きじゃないわね。仕事も捗らないし」
割と正直な答えだった。
「またまたぁ…大佐と違って―――って、そういうこと?」
彼の言葉に、もう性のようなものね、とリザは苦笑した。
「書類は溜まるし、出れば天気を忘れて焔を出そうとするし、下がっていてと言っても大人しくはしてくれない」
「あはは、雨の日は無能なのにな」
エドワードはあの場に居たので、その言葉を知っている。
「そうね。だけど結局は――」
微笑とも苦笑ともとれるそれ。
「大佐には有能でいて欲しいのよ…私がね」
「……惚気?」
エドワードのそれに、リザはまさかと即答する。
「私は大佐の補佐官。それだけよ」
*
「――良いことを聞いたな」
エドワードはロイが戻ってくるなり早々と報告書を出して、司令部を出て言った。イーストシティに滞在するのはほんの数日らしい。必要なければ訪ねてくることもないので、彼の情報は貴重だと思っていることをリザは知っている。
「エドワード君から何か有力な話でも?」
だから、それはごく自然な流れだった。
少なくともリザはそう思っていた。
「まぁ、それもあるが」
ロイはどこか嬉しそうに笑う。
「――君は私にどんな日でも有能でいて欲しいのだろう?」
彼が戻ってくるまでの間に、リザがエドワードに言った言葉だ。
まさか、聞いていたと言うのか。
立ち聞きと言う事実よりも、聞かれてしまったと言う恥じらいの方が早かった。
顔に熱が籠るのを感じた。
「聞いて、いらしたのですか」
「たまたま聞こえたんだ」
故意ではなく偶然だと彼は主張する。
「同じことです!」
聞いた事実に変わりは無い。だが、聞かれてしまったものは仕方がないと、リザは呼吸を整えて、部屋を出て行こうとした。
「中尉」
「なんですか?」
振り返れば、彼は雨の日にしては珍しく笑う。
「あいにく、外はこの天気なんだが?」
午後から何時間も降り続く雨。この空模様では、夜まで止みそうにない。
残業なのだから止むかもしれないと、まだリザは反論できそうになかった。
Date:2010.07.02
鋼の世界に傘はあるかどうかは兎も角、大佐はこの辺絶対適当だろう!
と言うのが私的見解です(理由→水分だから/笑)
エドと中尉は、組合せではなく絡みとして好きです。