■10.部下
視力を失ったのだと実感させられるのは、目が覚めたときだ。
あの戦いと絶望感を脳が鮮明に覚えていようと、見えていたときの感覚が残っているからだ。
毎朝訪れるその感覚は、否応なしに突きつける。
それは夢ではなく現実なのだ、と。
渡された細い布は緑色だったらしく、野戦病院と化したテントに連れていかれて暫く待機だった。リザが速攻で病院に運ばれていったことからすると、医療機関は被害に遭っていないのだろう。無理をさせたのは私だが、それに胸を撫で下ろした。
辺りは相変わらず騒がしいが、激闘のような喧騒は無い。怪我人の搬送を指示する声や救出作業の音が耳を打つ。目が見えなくなると、他の器官が敏感になると言うのは本当らしい。今でも思い出せるほど、冷静だった。
「大佐?」
だが、こうしてリザが来てくれているときに考えることではない。
時間を割いて来ている彼女に言える筈もなく曖昧に返事をすると、
「―――疲れていますか?」
と気を遣わせてしまった。
「いや、昨日はよく眠れたよ。これで外に出られたら申し分ないのだが」
食事が味気ないのは仕方が無い。大体、戦場に駆り出された時の食事とは比較にならない。
「怪我人なのですから、少しは大人しくして下さい」
半分は冗談のつもりだったのだが、大真面目に叱られた。
「そういう君は毎日ここまで来ているだろう?」
終日ベッドで寝ているのは退屈なんだと不満を口にしたら、前回無理矢理退院したのはどこのどなたですかと言われた。返す言葉がない。
「心配していただくほどの距離ではありません。私の病室はすぐそこです」
「ほう?どこの部屋だ」
訊ねると、リザが向いていたリンゴとナイフを置いたのが分かった。指差して説明してくれるのだろう。
「この部屋の斜向かいですよ。廊下に出れば見え―――」
続きは、聞き取れなかった。紡ぐはずだった唇は、ゆっくりと閉じたようだった。
「…申し訳ありません」
「何故謝る?」
きっとそれは、目の見えない私にタブーな話題を振ってしまったからだろうが、私はこれを君の所為だとは思っていない。
「あなたが視力を失ったのは、私の責任です」
君は責任感が強いから、言うと思った。
「……君は、後ろめたさを感じているから毎日来ているのか」
だが、寧ろ、責任を感じなければならないのは私の方だ。
私は何度君を傷つけたら気が済むのだろう。
「後ろめたさがないと言えば嘘になります。ですが、それだけで来ているのではありません。この先、付いて行くのでもありません」
詰まるところ自分自身の意志。
あぁ、やっぱり目は見えて欲しいものだと思う。
君の真っ直ぐな瞳は、私に確信をくれるから。
Date:2011.01.14
最終回妄想。目の見えてない大佐視点(なんか矛盾)はとてつもなく難解。苦笑
どうやら師弟時代は名前で読んでたらしいので、口には出さないけれども、
内心そう呼んでくれてるといいなぁ。なんて言う話。
鋼世界にあるかどうかは判りませんが、緑の布=待機 のトリアージです。