■12.好きだなんて言えない
彼に対して好意を抱いていない、と言うのは嘘。
答えなど、とうの昔に出ていた。
ただ、その答えから目を背けていただけだ。
だが、自分でも気付かないうちに芽生え、成長してしまったその種を、どのように刈るべきなのかをリザは知らない。
居るべき場所は、隣ではなく後ろ。盾になるのは私で守って貰う訳ではない。
そう自分に言い聞かせてみても、なかなか納得してくれないのだ。
彼が目的を果たして、背中を守らなくても良い日が来たとき、それからも必要としてくれれば、と思う自分がいる。
それを愛情と言うのだと認めた瞬間、己に失笑した。
馬鹿馬鹿しい。なんて惨めな感情を抱いてしまったのだろう。
「それは指示ですか?それとも私事ですか?」
リザは故意に突き放すような言葉を使った。今、距離を取らなければ取り返しのつかないことになってしまうと思ったからだ。
「……言葉遊びでもしているのかね、君は」
握っていたペンをロイはくるくると回した。小さく息を吐いて、彼はリザに目を向けた。
「質問に答えてください!」
我ながら、らしくないと思う。
「…後者と言ったら?」
「お断りします」
リザは即答した。これには流石のロイからも、先とは別の種類の溜息が落ちた。
「最近、付き合い悪くないか?」
「極めて普通だと思いますが。大佐の思い違いでは」
口にしながら、それは嘘だと心は言う。あらゆるものを避けるためにそうしているのだと、言えはしなかった。
書類を持って踵を返す。仕事の際も、余計な接触はしたくなかった。
「―――リザ」
ファーストネームで呼ばれて、リザはぴたりと足を止めた。否、無意識に足が止まったと言った方が正しいのかもしれない。
色々思い出してしまうから、名前で呼んで欲しくなどなかった。―――そんな感情はひた隠して、リザは彼を窘めようと、振り向いた。
「最近、私を避けているだろう?」
先に言われてしまい、リザは口を噤んだ。
その指摘が図星だったからだ。
「まさか。至らない点があることは感じていますが、精一杯補佐はしているつもりです」
それに、と名前のことを付け加えようとしたとき、ロイにそれを阻まれた。
「私が言っているのは仕事のことではない」
感づかれている、と思う。あからさまな態度だとは思ったが、リザもそれ以外に方法が見つからなかったのだ。
「―――それは答えなければならない質問ですか?」
立ち上がる彼に、鋭い視線を向けた。上官を睨みつけていると言われても仕方のないそれ。
「あぁ」
「それは上官としてですか?それともロイ・マスタングとしてですか?」
近づいてくるロイに、平静を装って訊ねる。
我ながら酷い質問だと言うことは分かっていた。彼が、このような事柄に関して、上官として訊ねていたことは一度もない。
「両方だ」
ロイは静かにそう言って、リザの腕を掴んだ。そのまま壁に押し付け、唇を奪う。
女性の力では到底成す術もないその力に、逃げることが出来ない状況に、リザは彼との力の差を感じた。
書類はばさばさと音を立てて床に散らばったが、ロイは見向きもしなかった。
「――――ッ」
繰り返されるそれに、リザは抵抗すら出来なかった。
久しく重ねることを避けてきたが、感覚はちゃんと覚えていて、少し驚いた。
「君は私が嫌いか?」
「………。」
それでもなお、リザはそれを肯定できなかった。嫌いだと言えば腕を離し、今後一切言及してこないと分かっていても、頷くことすら出来なかった。
彼に好意を抱いていないなんて嘘だからだ。
「さっきの言葉は本音か?」
こんなに近くで訊ねられたら、違う、と言ってしまいそうになる。
それでも、言わないと決めたのだ。
「―――好きだと言わないと決めたから」
気がつけば口にしていた言葉に、リザは驚いた。
彼はどこか哀しそうだ。
きつく掴まれた腕から、力が抜けた。
「…そう言わないと決めたのならば、代わりに愛していると言ってくれ」
彼の絞り出したようなその声は、まるで願いごとのようだった。
Date:2010.05.30
最後の言葉がこのタイトルの始まりです(笑)
中尉は、愛されるというより必要とされたいという
思いが強いんじゃないかと思います。
相思相愛なのに…というロイアイも大好きです←