■13.If it was said...

 いつ、何の拍子で、人を殺すかもしれない
 いつ、何の拍子で、誰かに殺されるかもしれない
 それを恐くないと言えば嘘になる。
 でも、それよりも恐れていることがある。


「―――リザさん?」
 日用品の買い物に出掛けた市場で、不意に後ろから声を掛けられた。
 リザをそのように呼ぶ人は少ない。
 それでなくとも、声で誰か直ぐに分かった。
 あの兄弟の幼馴染だ。
「ウィンリィちゃん?こんにちは」
「お買い物ですか?」
「えぇ。備品が切れてしまったの」
 エドワード達と中央に来たことは分かっていたので、特に疑問は抱かなかったが、どうやら一人のようだ。
 幼馴染と言うよりは家族のようなもの、と聞いた覚えがあるから、てっきり一緒にいるものだと思っていた。
 兄弟は旅から旅への根なし草だから、せめて一緒に居るときくらいは。
「今日はひとり?」
 リザが訊ねると、ウィンリィは小さく頷いた。
 その顔が、先日司令部の前で会った時より、晴れていないことに気がつく。
 直ぐそこに喫茶店が見えたので、リザは彼女をお茶に誘った。

 美貌ながらも仕事中余り笑顔を見せないために、喫茶店など不釣合だと思われがちだが、リザ個人としては嫌いでなかったりする。良く行く上司(これは本当に多い)や友人との間では、誘われる側になることが多いだけなのだ。
 ウェイターを呼んで、飲み物が運ばれてきたのをきっかけに、リザは口火を切った。
「浮かない顔をしているけど、どうしたの?」
3度目の対面にしておせっかいとは思ったが、はぐらかされることを前提で訊ねてみた。
「ヒューズさんの、ことを知りました…」
 あの夜、大佐が兄弟に会ったと言っていたから、然して驚くことではなかった。ヒューズ准将殺害事件の犯人と断定されたロス少尉を逃がす場で会ったと言うのだから、どのような経緯であれ、彼女の耳に入っていてもおかしくは無い。
 それに不可解過ぎるほどメディアに取り上げられていたのだから、偶然知ったと言うことも考えられる。
「―――そう。辛かったわね…」
 エルリック兄弟が、中央に来た際にヒューズ准将と接触していたことは、アームストロング少佐の話を通して分かっていた。エドワードの義肢装具士は彼女と言うから、その経緯で知り合いにでもなったかもしれない。
 そして良き父親(親バカ過ぎるところはあるが)の彼を、もしかすると、亡き父親に重ねていたのかもしれない。
 一連のことを考えると、彼女が落ち込んでいる理由は推測出来た。
「リザさんは、何かを恐いと思ったことはありますか?」
 もう何年も前、彼女たちの故郷で訊ねられたことを思い出した。
「あるわよ、たくさんね」
 同じ答え方しか出来ないのは、あの時と大して変わっていないからだろうか。
「―――死ぬことですか?」
 そうね、とリザは肯定したが、それ以外にもあると付け加えた。
 今の自分にとっては当たり前なもので、それを失う恐怖など口にしたことは無かったが、多分、これは死ぬよりも恐いのだと思う。
「必要ない、と言われる方が恐いわ」
 彼の背中を守ると決めた日から、そのことによって命を落とすことは覚悟している。彼が目的を果たすその日まで引き鉄を引く。彼の手助けをする。
 それが自分の存在意義だから、必要ないと言われたその先を想像することが出来ない。
 だから、自分の死よりも恐い。
 目の前の彼女は、少し不思議そうな顔をしたが、直ぐに合点したようだ。
「―――何よりも、あの人の死が恐い」
 考えると恐いものだらけね、軍人なのにとリザが苦笑すると、ウィンリィもつられて少し笑った。
「だから、あなたがエドワード君やアルフォンス君の死を恐れるのもごく自然なこと」
 重ねる訳ではないけれど、とリザは思う。
 きっと、彼女が恐いのは、彼らが、突然いなくなってしまうことなんだろう。
「待っていてあげなさい。帰る場所があること―――それが生きて帰ってくる理由になるのよ」
 私にそんなことは出来ないけれど、と思う。
 でも、傍に居ることくらいは、きっと。



Date:2010.06.01
女性陣ってあるようで接点無いなぁと思い、書いていると
何だか情報整理みたいな描写が多くなりました(笑)
中尉も大佐に対しては自分のことは二の次だと思うのですよ。