■15.何よりも大切なもの
「―――あのとき、君の目配せがなかったかと思うとぞっとする」
ロイの視力が戻り、リザの傷も回復したところで、彼女は上官に打ち明けられた。
その指示語が、何を指すかは分かっている。中央司令部の地下で、彼が人体錬成を迫られたときのことだ。
「ヒューズの墓の前で君には大丈夫だと言ったが、あの場所で同じことを言えたと言う自信がない」
自信がないなどと、上官の口から出てくるとは思わず、リザは少し驚く。自信家で、野心家で、プライドが高くて――もちろん、情に厚いことや努力を惜しまない面があることは知っているけれども、その彼から。
「あの後、おっしゃっていたじゃないですか。人体錬成などしたら撃ち殺すって顔をしていたと」
ぎゅっと抱きしめられて、良く気づいて下さいましたと言ったときに返ってきた言葉だ。
「君がいないなど、考えられない」
エンヴィーの最期を前にして、ロイに銃を向け、リザは、彼を撃ったあとのうのうと生きていくつもりはない、闘いが終わったら身体もろとも焔の錬金術の秘伝を葬ると言った。
つまりそれは、後を追うと言うこと。
「思った以上に、私は君に依存しているらしい」
そう言って、ロイは苦笑した。
彼女をこんなつもりで傍に置いたのではなかった。言葉は悪いが、正しい道を歩くために必要だったからだ。
多少の情はあっても、思慕の感情はない筈だった。
リザは、ロイの言葉が意外と言わんばかりの顔をしていたが、やがて、口を開いた。
「その仮定に意味はありませんよ」
私もあなたも生きています、とリザは静かに続けた。
ですが、とリザの口からは逆接の言葉が漏れる。彼女にしても無意識に出た本音で、それにびっくりした。慌てて口を噤む。
「ですが、なんだ」
続きを催促するロイに、リザは観念の溜息を内心つく。吐きでてしまったことは仕方がない。
「それは私も同じです」
彼のそれで、はっとしたのだ。
ラストと言う人造人間の前で、あとから思えばびっくりするくらい動揺していたのも、銃を向けたのも、それが理由だったからだ。
次世代の人たちが幸せに暮らすために血の河を渡るのだと、イシュヴァールでしたことへのけじめとして、軍服に袖を通したはずだった。
感情移入はしたとしても、その範疇ではなかったと言う自覚がある。
「素直な涙の意味と取っていいか?」
少しだけ笑ってロイが言う。
「……その表現、止めてくださいませんか」
あのときもそうだったが、リザは己の涙をそんな風に表現されると恥ずかしくなる。
「どうして?」
しかし、それを彼には、何があっても言いたくない。
今後、事あるごとに、からかいのように口にされることが分かっているからだ。
「それくらいご自分で考えて下さいッ!」
――――女性の心境を読むのはお得意でしょう?
とは思ったが、言葉にしたくなかった。
地位や身分や性別に関係なく、彼が何よりも大切だからだ。
Date:2011.08.15
二人になると大佐は心配だったとか結構言ってるので、最終回後も言っているんじゃないかと。笑
と言うか、あの戦い後、大佐の意識は強くなったんじゃないか…?
ただ、大佐にしろ中尉にしろ恋愛感情とは少し違うようなそうでないような気がしてます。