FULLMETAL ALCHEMIST Roy x Riza Novels-16.



これはまだ、彼らが東にいた時のお話。

 司令部の1階にある、小さな掲示板を大勢の人間が囲んでいた。
 朝から何事かと思ったが、どうやら重大事件といった様子ではないようだ。がやがやと掲示板を囲んでいる衆は、誰も顔が穏やかだった。
「どうした?」
 フュリーにハボックが声を掛けた。彼がおはようございます、と挨拶するとハボックはそれを返し少し背伸びして掲示板を見た。
「……だろうな」
 掲示板への貼り紙を見て、ハボックが一言。どうやら納得のいくそれだったらしい。
 しかし、フュリーは首を傾げた。ひょろひょろと身長のあるハボックはともかく、背が比較的低いフュリーはうんと背伸びをしたとしても掲示板に何が書いてあるのか分からないのだ。辛うじて、小さな紙が貼ってあるということが分かるだ。
「少尉、皆さん何に騒いでいるんですか?」
「……Riza Hawkeye」
 まるで独り言のように、彼はそう呟き、すたすたと歩き去る。
 ふと時計を見れば、あと四半刻で勤務時間だ。
 内容は気になったが、下っ端が遅れるわけにも行かず、急いでハボックの後を追った。

――そのころ。
 時間より少し早めに出勤していたロイは椅子に腰かけ、首を左右に動かしている。昨晩遅くまで何をしていたのか、まだ眠そうな顔をしている。
 すると、ノックの託けの言葉とともに扉が開いた。入ってきたのは、ブロンドの髪をバレッタで纏めている彼の部下――リザ・ホークアイだ。
 同様、彼女も昨晩は床に就くのが遅かったらしいのだが、彼女の様子に何も変わりはない。丁寧に手入れされた軍服を纏い、右手にはおそらく朝一番の仕事だと思われるファイルを持っている。おはようございますと挨拶すると、ロイは眠そうな顔を彼女に向けた。
「…お早う」
 ロイはリザからファイルを受取ると、さっきの眠そうな顔はどこへ行ったのか、何かに満足しているような顔でリザを見た。彼が何を言わんとしているか、リザも気づいていないわけではないらしい。だが、彼女に言わせれば至極当然のことなので、敢えてひけらかそうとはしなかった。
「通知は来たか」
「えぇ、先ほど」
 彼が呟いたのは同僚の名。…否、同僚と言ったら失礼だろうか――自分たちの上司だ。
 特に思い当たる節はなし。何かと彼に理由を問えば、「お前、忘れたか」と胸ポケットから煙草を取り出しながら言った。
「――2,3ヶ月くらい前、中尉は大佐に言われて書類を出しただろ。…今日、その結果があの貼り紙だ」
 フュリーは再び首を捻った。2,3ヶ月前、彼女が提出したもの。……。
 やがてあることが思い出されると、彼はあぁと相槌した。
 ハボックの言う「あれ」とは、中央司令部に提出した書類のことだ。
 何でも、大総統が「地方の問題は地方が知っている」と言いだしたらしく、それで各司令部に管轄の問題点と改善策についての書類を提出させたのだ。
 そしてどういうわけか、「審査の上、優秀なものには粗品を進呈する」という仕組みであったらしい。
「"優秀賞"だとさ。…中央でもこの指だ」
 ハボックはマッチで火を灯すと、右手をぱっと開いた。5本。彼はそう言いたいらしい。
そしてようやくフュリーはハボックが呟いた理由を理解し、揃って執務室に足を進めるのだった…。


「――もう少し、喜んではどうだね?」
 ロイは肩を竦めて言った。大総統から送られた粗品(とその他諸々)を受取ってもリザは嬉しそうな素振りを見せなかったのだ、無理もないだろう。
「ですが、これは――」
「私が進めていたことだった、か?」
 リザが言いかけたことをロイは代弁した。リザは深く頷く。
「提出した書類は大佐が調査していたことです。私はその一部を担っただけで…」
「確かに調査をしたのは私だが、書類をまとめたのは君だ。ホークアイ中尉」
 彼の言うとおりだった。確かにロイは管轄内の問題点を調査していた。しかし、彼の調査の書類を取捨選択し、書類に仕上げたのはリザ自身だった。――それを理由に彼が中央に彼女の名前で提出した。
 半ば無理矢理――彼女が彼に言われて提出したと周りには言い聞かせて。
「――それで、君は何が欲しい?」
 ロイはデスクに両腕をつき、手を組んでその上に顎を乗せた。そして彼女の琥珀色の瞳をじっと見つめた。
「"何が"とおっしゃいますと?」
「それは君次第だ。――それとも」
 ロイは不意にリザの腕を引いた。そして耳元でこう囁く。
「今夜、私の家に来るかい?」
「大佐!!」
 リザは腕を強引に振り解いて、数歩下がった。…顔が赤い。
「私はここでしてもいいのだが」
「なっ…!!」
 その時、扉が開いた。――ハボックとフュリーである。
 これがチャンスと言わんばかりに、彼女は執務室を出ていく。お陰で二人とも祝いの言葉どころか挨拶さえもしそびれてしまった。
 …そして、彼らが上官に目を向けると。

『………。』


 今日一日、彼の機嫌が悪かったのは言うまでもない。


END

*POSTSCRIPT*
地方の問題は地方が知っている。きっかけってこんなものです(笑)
それにしてもハボックもフュリー、何も悪いことしていないのになぁ…。
2007.06 / 2010.06