「全く……鬼だろう、警備課は」 動かす右手はそのまま、ロイはうんざりとした表情で言った。 彼の執務机には、こんもりと書類が積み上げられている。半分程は処理した筈だが、軽く百科事典ほどはあろう。作業を始めてかれこれ数時間が経つ。部下が帰宅するのを横目で見ながら、ひっきりなしに作業をしている。 「朝一番の会議で使用するとあっては仕方がありません」 そう言うのは夜勤のリザだ。彼女にはサイン済みの書類を随時提出して貰っている。 「しかし何も夕方持ってくることはないだろう?この量を」 さきは仕方がないとは言ったものの、その点ではリザも同意見だった。今日はロイが書類を溜め込んでいなかったから良かったものの、とても至急にと持ってくる量ではない。 時計は既に23時を差している。窓から見える月はもう随分と上に来てしまった。昼間の喧噪は何所にもない。任された書類を自らも進めながら、頃合いを見計らって彼の書類を提出しに階下へと向かった。 それが終わったのはとうに日付が変わった時分だった。 お疲れ様でした、と凝った肩や首を回す上官にリザは労いの言葉を掛け、最後のそれを手に取る。 何かお飲みになりますか、と問えばあぁ頼む、と一言。いつものやりとりだ。頭に糖分が足りないのか、 「少し砂糖を多めに頼む」 そう付け加える。了承の意を示し、リザは執務室を後にした。 * リザが執務室に戻ると、ロイは肩肘を付いて眠っていた。利き手はまだペンを持っているような形になっているのは、長時間その状態であったことが伺える。最も彼女はそれを知っているが、彼が労力を費やした結果だろうとリザは思った。 ひとまずリザは持っていたトレイを自分の机に置いた。風邪を引くといけないからと、ロッカーから毛布を取り出して掛けてやる。使うことさえ出来ればいい、という扱いの悪いその扉が独特の音を立てたが、彼はそれに気づく様子もない。 彼の寝顔を見るのなんてどれだけぶりだろう、とふと考える。最近、勤務中に抜け出すことも少なくなって、どこかで昼寝をする彼を探しに行く回数も減ったから―― 「私の顔に何か付いているのかね、中尉」 いきなりのそれに、リザはびくりとした。 「た、大佐…!!いつから、お気付きに…?」 謝罪よりもそんなことを口走り、しまったと思ったが出てしまった言葉はもう戻らない。覆水盆に返らず。 「君がこれを掛けた辺りから」 と指差したのは先ほどリザが肩に掛けた毛布。あぁ寝ていたのは本当だ、君が入ってきたのは気付かなかった。そんなことをしれっと言うが。 リザにそれは聞こえていなかったという方が正しい。 「――で、初めに戻るが」 話を戻され、リザは自分の顔が熱くなるのを感じた。 「不快な思いをさせて申し訳ありません。以後このようなことが無いよう、気をつけ」 その言葉は最後まで言うことが出来なかった。 不意に引かれた片腕でリザはバランスを崩す。そして彼女は彼の思惑通り、彼の膝に座る形となった。 「私の寝顔を見た罰だ」 戸惑うリザにロイは笑ってそう言う。掴んだ腕を当分離すつもりはなかった…。 END *POSTSCRIPT* なんかネタが被ってる気がするけど気にしない(おい) ほら、あれです、珍しく書類を溜めてなかったから! とか言ってみます(汗) 2008.05 / 2010.06 |