FULLMETAL ALCHEMIST Roy x Riza Novels-24.


 室内の明かりを落とし、レースカーテンを残してカーテンを開けた。
 今日は終日晴天で、雲隠れすることなく月が空に顔を出している。窓をほんの少し開ければ、夜独特の空気が流れ込んできて気持ちよい。
 部屋の隅にある台に置かれているレコード機器。今では随分と旧型になってしまったが、リザは敢えてそれを買い替えようとは思わなかった。もしそれをしてしまったら、それを使う価値が無くなりそうで。
――――それに何より、忘れたくなかった。
 過去のあらゆるものを捨ててきても。必要のないものは切り捨ててもこれだけは、どうしても出来なかった。家を引き払った時、持ってきたものといえはこれくらいだろう。いくつか父の弟子が持っているように勧めたものはあったような気はするが。

 外にそれが漏れないように音を絞って、静かに円盤に針をあてた。
 それが奏で始めるのを確認して、その傍に腰を下ろした。

 持っている円盤も数えるだけだ。彼女の父が珍しく大切にしていた1枚と、偶然これを知った友人が勧めてくれたそれと……。
 もともと自分が多趣味というわけでもなく、ひとつのものにのめり込む様なタイプでも無いことはリザも十分に自覚している。ただこれだけは、もしかしたら一般に言う趣味の類に入るのかもしれない。

 カーテンの踊る窓に目を向ければ、そこから差し込む月光はまるで芸術作品のようだ。そんな自分らしくも無いことをぼんやりと考えながらリザはそれをただ眺めていた。旧型のそれが奏でる音は自然と彼女の耳に入ってきて、余分な心配事や不安を取り払ってくれる。
 こんな、何も考えることのない時間を持つことは嫌いではなかった。それは日常的に状態に考えることに追われているからかもしれないのだが。

 ふと演奏以外の音を聴覚が感じ取った。それは扉の音だと、一番出入りしている彼女なら推測できるのはごく当然だろう。
 日中でも無く夜分に、しかも女性の部屋に勝手に入ってくるなど不謹慎なこと極まりないのだが、不思議なことにそれに警戒心は抱かなかった。第六感がそう言っていた。
部屋の扉が開けば、見慣れた漆黒の髪の上司だと分かった。
「……大佐…」
「鍵、開いていたから」
 少しは身の危険を感じたまえよ、と窘めているのか冗談で言っているのか分からないような調子でそう続けると、ロイはリザの隣に腰を下ろした。
 流れるそれに小さくひとりごちる。
「…ショパンの夜想曲か。君に音楽の趣味があったとはな」
 多趣味というより無趣味なことは自覚しているが、彼にそれを認められると反論したい衝動に駆られるのは彼女の思いすごしだろうか。
「趣味というほどでは。寧ろあなたがこれを知っていたことのほうが喫驚(きっきょう)に値しますが」
 多少のそれはプライベートの時間なら許されるだろうか。
「昔少し齧っていた。その世界では有名な曲だよ、これは」
「……初耳ですね」
 隣に座る上官に関することは、女性関係も含め数多耳にしていたがそれは今までに聞いた覚えがなかった。オペラだのクラシックだの、その類の演奏会に行くのは女性の趣味か、お決まりのデートコースだと思っていたのだが。それは彼の好みでもあったということか。
「君に話すのが2人目だからな。そう知る者もいるまい」
 苦笑が交じった調子で彼は言う。君が初めてだと言われない部分に抱いた感情を世間では嫉妬という。
「……妬いたか?」
 誰にとも誰をとも言わなかった。暫しの沈黙をそう捉えたらしい。
「まさか。少し考えただけですよ」
 半ば図星のそれに、皮肉交じりに言い返してみる。だがそれは、彼にとっては思う壺だったようだ。くつくつと笑う。それにリザが不快だと云わんばかりに眉を寄せると。
「君も一応女だな」
「……いささか失礼な言葉に聞こえますが」
 少なくとも、彼が日常関係を持っている女性には使わないだろう。言えば平手を食らっているかそんなところだろうと安易に想像がつく。最も彼の場合、口にするはずが無いのだが。
「君は世間一般の女性のカテゴリーには分類されないと思うが?」
 その通りである。だからロイはリザに向かってそう形容するし、リザもそれは自覚している。
「もう少しマシな言い方が――」
 あるでしょう、という言葉はロイの別の言葉と重なった。顎とぐいと引かれ、一瞬のうちに唇を重ねられる。
「私の女であることに変わりはないが」
 それはまるでリザが自分のものであるかのよう。そんな君が私は好きなのだが、とそれに付け加える。
「何を――――」
 冗談言っているのだろう。女性という類に分類される覚えはあっても、女というそれに分類される覚えはない。
 漆黒の瞳に見つめられると、自然に鼓動が速くなる。月光が巧い具合に反射している。このままではどうにかなってしまいそうで、リザはそれから眼を逸らす。
「私は本気だぞ?」
「あなたの本気はどういう意味か理解しかねます。どうか他の女性に」
 演奏を終えた円盤を取換えようと立ち上がろうとするリザの右腕を強引に捉える。再びロイは口づけた。
「不満か?」

 何をとも聞かず、しかもそれを口付けの後に尋ねるのは反則だと思った。


END

*POSTSCRIPT*
タイトルはEndless4よりお借りしました。
大佐の養母は色々とやらせそうだなぁ、と思いまして。
2008.08 / 2010.06