FULLMETAL ALCHEMIST Roy x Riza Novels-27.


――――あれはいつのことだっただろう。
そう、あれは確か、寒さの残る春の日……。


 本館から別館へと続く渡り廊下。大した距離は無いが、その廊下の敷地は中庭になっていて、この時期になると植えられた花が色とりどりのそれを咲かす。殆どの仕事が階上階下で終わってしまうからそこを歩く機会は少ないけれど、窓から見えるそれを見てはまた季節が一通り巡ったのかと微笑ましく感じたことをリザは覚えている。
 彼の斜め後ろを歩きながら、重要事項を優先して報告する。敷地内の移動と言っても、時間は無駄に出来ない。人員不足だ何だと言う割に、同僚が余り増えないのは国内で戦火が散っているからか、それとも。
 前を歩く上官が不意に立ち止まって、リザは報告書から視線を上げた。
「どうかなさいましたか?」
 リザからはロイの横顔しか窺えなかった。ロイは彼女の視線に気が付いたのか、いや、と短く答えて微笑した。
「久しぶりにこの花を見たと思ってな」
「花?」
 リザは僅かに首を傾げた。本当に情報収集が目的なのかと疑いたくなるほど、まんざらでも無い様子で女性に花や物を送る彼だ。辺りに生える雑草ではあるまいし、その中に1本くらい混ざっていても不思議ではないと思うのだが。
「―――これだよ」
 彼が差したのは紅紫の花。他にも白や桃色のそれが傍に咲いている。
「この季節になると見かけますね。確か名前は……ジリーフラワー・ストック」
「別名、紫羅欄花(あらせいとう)」
「……詳しいのですね」
 厭味では決してなく、尊敬の意味でリザはそう言った。すると昔近くの公園に咲いていたのだと彼は笑った。
「これには見つめる未来という花言葉があってね」
 だから覚えていたんだ、とどこか遠くを見つめた表情で言った。
「根が強い花だからですか?」
 ストックと名が付くくらいだ。見たところから判断してもあたりに生えている花とは少し違う気がする。
「…そうかもしれないな」
 私も気付かなかった、と言って彼は笑った。
 ほんの少し意外な顔をしていたことを今でも覚えている。
「―――と、立ち話をしている場合じゃなかったな。行こうか、中尉」
「はい」





「…懐かしい話ね」
 ブラックハヤテ号の頭を撫でながら、リザはひとりごちた。愛犬はリザの回想を見ていたかのように頷いた。飼い始めてそれほど長くは無いが、帰宅直後のことと言い、主人の様子の差異には気付くらしい。まるで、励まされているような気さえして、リザは苦笑した。
 すると、扉の方から音がしてリザはそちらを向いた。彼もそれに気付いたのか、玄関に走り出す。
 リザが後を追って扉を開けると、扉の傍に花が立てかけられていた。かのジリーフラワー・ストックが。
 廊下を見渡してみるが、誰ひとり見当たらない。それほど時間は経っていない筈なのだが、一体誰だろう。
 あの後少し調べてみたのだが、ジリーフラワーには他にも花言葉があるらしい。
「平和、思いやり…あるいは――――逆境の忠節」
 果たしてこれはどの意味か。

―――――本当に?

 さっきの電話で気付かれただろうか。顔に出てしまうのが怖くて、花瓶が無いからと断ったけれど、電話の向こうで彼は悟っていたのかもしれない。
 部屋の前まで来て置いて行ったのは、彼の思いやり?未来はあると言う励まし?それとも。
「この状況でもついて来い、ということかしら」
 リザはくすりと笑った。本当に彼らしい。
 鼓動が速くなっていた心臓も、随分と落ち着いてきた。足元で尻尾を振る愛犬の頭を再び撫でて、話しかける。
「少し遅いけど、夕食にしましょうか」
 彼女の表情は、いつの間にか和らいでいた……。


END

*POSTSCRIPT*
過去拍手微修正。『ごひいきの花屋です』の回です。
あのやりとりでご飯3杯はいけると思います。
2009~2010.06.11 Web拍手