FULLMETAL ALCHEMIST Roy x Riza Novels-30.



「どういう意味だ?」
 特に含ませて言ったのでは無く、彼もその意味通りに答えていたので、何も考えてはいなかった。
 アームストロングを適当なところで降ろし、怪しまれないよう車を走らせていたところで、リザはロイにそう言われた。
「…何がですか?」
 当然、返答はそうなる。ロイの下に付いて長いし、多くのことは何の話をしているか分かる。それでも、まだ時々理解しかねる。
「意外と余裕ですね。君はそう言った」
 拗ねていると言えば少し言い過ぎだが、機嫌が少しだけ負の方向に作用しているようだった。だが、疑問詞を付けられるも何も、
「――それ以外に意味が?」
 あるわけない、とは上官に向かって言わなかったが、それを声音に乗せたら、言ったのは君だろうと指摘された。その通りだった。
「試されている、と仰ったことに対するそれです」
 彼は、大総統が自らの出生の秘密を明かしたことに対し、後ろにもっとでかいのが居ると暗に示されたと言った。そしてそれは、光栄なことに試されていることだと。
 リザのそれに、どうかな、とは言ったが、その後の発言からすると、前向きに捉えているとばかり思っていた。
 今になって考えてみると、悠長に建設的な見方をしている場合ではないのだ。
 部下は散り散り。軍上層部の情報を握っていたことも全てばれた。
「何を試されていると思う?」
「はぁ?」
 リザの思考とは全く方向性の違ったそれに、思わずそんな声を出してしまった。すみません、と直ぐに謝罪したが、気にしてはいないようだった。
「君が人質なんて余裕がある訳ないだろう」
 意外と言うより、びっくりした。
 大総統に『野望があるからまだ辞めん』と言ったと聞かされた時よりもびっくりした。
「……何故そんなに驚くんだ」
 あっさりと余裕がないと言うからだ。とは、言えなかったが、リザは自分と彼に苦笑した。
「―――見栄ですか?」
 さっきまで、アームストロングが後部座席にいた。遠慮したところを、部下が世話になったからと理由を付けて車に乗せたのは、家まで送ると言うのが本当のそれではなく、事情を話すためだ。見るからに不審な人事異動の対象は、ロイの直接の部下たちだけだった。ロス少尉の件で、多少なりとも知られた可能性はあるが、確実に自分たちより監視は薄い。
 そんな彼の前だからかと言えば、ロイは視線をリザから窓の外へと向けて言った。
「あそこで私が弱音を吐いてどうする」
「――そうですね」
 リザは素直に頷いた。弱音を吐いて、動揺させるメリットは何もない。
 と、ここで、リザは彼が自分にこんなことを言った理由を考える。
 それは単純明快だった。
 ロイは、大総統補佐とか言う一番あり得ない人事――彼への釘差しの位置にいるリザを心配しているのだ。
 上官はいつだってそうだ。目的優先と口では言いながら、他人のことを放っておけない。自分のことなど二の次だ。
「大佐」
「なんだ」
 彼の視線はとっくにリザに戻っていた。それが、少しだけ意外なものだったことに気が付かないほど浅い付き合いでは無い。
「私は大丈夫ですから、少しは余裕を持って下さい」
 ロイは怪訝な顔になった。特に前半など欠片も信じていないようだった。
「君は自分がこれから置かれる立場を理解しているのか」
「不穏な動きをすれば真っ先に殺されると言うのでしょう?」
 沈黙を肯定と受け取って、リザは続けた。
「先ほど仰ったではありませんか。試されているのは光栄なことだと」
 そう思うことにします、と言ったらロイはやはり驚いたようだったが、やがて笑った。
「死ぬなよ?」
「はい」
「それから、無茶はするな」
 努力しますとリザは少し考えてから返事をすると、その間は何だと指摘された。
 死なないとは約束出来るが、それは少し無理な注文だ。
 ロイは諦めにも似た溜息を吐いた。
 リザは自分で言っていた。裏表のない性格だと。
「――極力私に報告しろ」
 これが、今のロイに出来る最大限の譲歩だった。
 本当なら必ずと言いたいところだが、流石に人質同然の彼女にそれは酷だ。
「はい」
 それ以外の返事は、無粋だ。暗黙の了解で伝わるくらいの付き合いはしている。
 リザはそうして、上官の家の前まで車を走らせたのだが、彼に伝えることになる情報が、

『SELIM BLADLEY IS HOMUNCULUS』

と言うそれになるとは、重要機密だと思いこそすれ、露にも思わなかったのだった。


END

*POSTSCRIPT*
57話『イシュヴァールの傷』の中間あたり。
こういう解釈が可能性としてはあるよね?
と言う、なんとも突発的なネタでした。笑

Marge = 余裕、空白(仏語)

2010.07.03