「―――傷の具合はどうだ?」 太陽も沈んで、騒がしかった病室は静かになった。明日も来ますんで、と言い残してブレダ達は帰っていった。 見舞いの品の代わりに置かれているのは、イシュヴァール関連の本だ。どれも分厚いものばかりで、広げたシートいっぱいに積み上げられている。 彼らが帰ったあとも暫く勉強は続いて、リザはそれに付き合っていた。割と物事に熱中しやすいのは錬金術師の性だろうか。 ノックスには、病み上がりにこの怪我だから、休めるときには休んでおけと言われたが(流石は医者である)、ロイはのんびりするつもりは毛頭無いようだった。 ロイの気持ちは、何となく分かる。 そういうこともあって、リザは彼の勉強に付き合っていたのだが、本を閉じるなりこれだ。 本当に、人の心配ばかりだ。 「創傷なんて傷口さえ塞がれば、平気なものですよ」 リザはともすれば失血死だったそれを、創傷の一言で片づけた。 しかも、余計な心配だと言わんばかりの苦笑が交じっている。 使っていた本を積まれた場所に戻そうとしたリザを、ロイは腕を掴んで引きとめた。 リザが虚を突かれている隙に、包帯の巻かれた首筋へと手を伸ばす。 「――――っ」 ロイが包帯と思われるそれに触れた感覚を覚えた瞬間、リザが痛みに耐えたような声を漏らした。 「―――本当か?」 こんな状態でずるい、とリザは思う。 どうして彼は、プライドの時と言い、見てもいないのに分かるのだろうか。 「あなたは、余計なことばかり気にして…」 本当に大したことは無い。視力を失ったあなたと比べれば。 「君が無理をするからだ」 あのときもそうだった、とロイは嗜めるような調子で言った。 訊けば、近況報告と思い出話のフリをして、セリム・ブラッドレイの正体を伝えたときと言うではないか。 影のようなもので脅されて出来た擦過傷。絆創膏で隠すと目立つと思いそのままにしておいたが、ロイは気づいていたらしい。 「嫌なことでもあったかと訊いたときの君の顔は、何かを隠すそれだった」 前日の電話に、あの後君が私に伝えた暗号―――答えは簡単だとロイは言った。 「気づいていらしたのですか」 「当たり前だ。君が危険だと思ったから言わなかった」 「それは―――ありがとうございます」 それ以外に言葉が見つからずにそう言うと、ロイからもう無理はするなと言われた。 良く似たことを過去に何度も言われている。 「それは私の台詞です」 リザもロイに同じことが言いたかった。 しかし、ロイはそれを無視して、 「返事は」 「……了解しました」 間が少し空いたことは許して欲しい。 リザがそう思っていると、腕を引かれてロイに抱きしめられた。 シンから来た少女に止血してもらったときくらい、強く。 「君が今まで無事で良かった」 彼が心配してくれたことが不謹慎ながらも嬉しくて、リザはロイの背中に腕を回した。 END *POSTSCRIPT* 第64話(最終回)『旅路の涯』より 2人部屋、ロイアイ以外に何がある!!と言うことで妄想(笑) もう彼らはぎゅっってずっとしてればいいと思う。 2010.07.17 |