人造人間と大総統になれなかった者たちから負わされた傷は、確かに辛かった。
自分で見ても驚くほどの出血で、止血はして貰ったけれど、それでも良く立っていられたものだと医者に感心された。
でも、彼は。私はあの人を―――
病院でちゃんとした処置を受けて、落ち着いたところに伝言が届いた。
「また忙しくなるぞ、ついて来い!だそうです」
目の見えない軍人は退役させられることをリザは知っている。
だから、彼が軍に残ることは出来ないと思っていた。
「それは―――」
痛みを忘れて起き上がってしまう。
それくらい、その言葉は希望に満ちていた。
「ドクター・マルコーがいましてな」
賢者の石を持っている医療を得意とする錬金術師だ。
ハボックの足の件で、エドワードやブレダから聞いたことがある。
「イシュヴァール政策の引き受けを条件に、石を使おう、と」
正直、泣きそうになった。
自分が彼を守ることが出来なかったから、と責め続けるつもりでいた。
「―――と言うことだ。ついてきてくれるか」
涙を堪えるのに必死だったのかもしれない。
突然、声が聞こえたときには驚いた。
「大佐!―――っ」
負った怪我のことなど忘れて再びこの有り様だ。
ノックスに支えられて歩いてきたロイは、アームストロングに勧められた椅子に腰かけた。
「動かない方がいい。安静にしていろ」
ただ、ロイもあまり人のことは言えなかったりする。誰かに連れ添って貰わなければ、満足に歩くことは出来ないし、両手はブラッドレイに剣で突き刺された。
「どのみち見えていないんだ、気にすることもないだろう?」
苦笑して言われて、リザは背中をベッドに預けた。
知らぬ間に、ノックスもアームストロングも部屋から出ていっていた。
気を使われたのかもしれない。
「大佐」
「―――軍以外で、この身体なりに出来ることを探すつもりでいた」
軍属でなくとも出来ることはたくさんある。
ハボックだって、今回、手を貸してくれた。
「思わぬところで救いの手だ。―――期待されている。光栄じゃないか」
右手の中指で、左手を包帯の上から擦りながら、ロイは言った。
大総統に軍を辞めないと宣言してきたあのときと似た光景だった。
彼はまだ諦めていない。私はまた諦めてしまっていたとリザは思った。
「大総統になると言う夢は、まだ叶っていませんからね」
冗談めかして言ったそれに、そうだなと彼は笑った。
「―――痛むか?」
電話の時といい、直接見ていないのにこういう部分は敏いと思う。
「これくらいの傷、何ともありません」
点滴を通しているあたりで既に説得力が無いが、見逃して欲しいとリザは思った。
視界が霞むことは無いが、立ったら立ちくらみを起こしそうなのは確かだ。
だが、そんなリザの言葉をロイがまともに受ける筈もなく、点滴は生食だろうと指摘されて言葉に詰まった。
化学の分野で錬金術師に勝てる筈もない。
「君には迷惑を掛けたな」
自嘲ともとれるような微苦笑だった。もしかすると、復讐心に捉われていた自分を思い出しているのかもしれない。
「迷惑だなんて言わないでください。迷惑を掛けたのは寧ろ私の方です。私がもう少ししっかりしていれば―――」
視力を失わずに済んだかもしれないし、状況も変わっていたかもしれない。
「そんなことはない。君がいたから、私は踏みとどまれた」
もう少しで道を完全に誤るところだった。それこそリザや部下たち、錬金術を教えてくれた師匠に顔向け出来ないほどに。
「撃ち殺せとは言わない。―― 一緒に来てくれるか?」
向けるのは銃では無い。誠意と心だ。
「何を今更」
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公然で"ぎゅっ"もありましたが、恥ずかしいと思うので退席させました(笑)
補足ですが、生食=生理食塩水 です。
話し言葉なので前者を使いましたが、辞書には出てこないと言う…。
2010/07/17