02. Continued story

 あの混乱の後で、暫くは中央にいるものだと思っていたが、エドワードが執務室を訊ねたときには、既に段ボールの山だった。  聞けば直ぐに東に異動だと言うし、ばらばらに引き離されたから荷物も少ないと言っていた。
 茶でも出そうかと言われたが、多忙のようだし、第一そんな仲では無いので断った。
「視力、戻ったんだってな」
 エドワードがそう切り出すと、作業をしながらロイはあぁ、と頷いた。
「ドクター・マルコーが賢者の石を持っていた。それを代価に扉を開けた」
 生きた人間を材料にした赤い石―――それを通行料としたことをロイは、隠そうとしなかった。
 兄弟が賢者の石を使って自分たちの身体を元に戻さないと決めたように、ロイにもまた、決めていたことがあるからだ。
「彼が持っていたのは、イシュヴァール人を使って作ったそれだ。―――嗤うか?」
「……いや」
 壁に凭れて話を聞いていたエドワードは、天井を仰いだ。
 彼はほとんどイシュヴァールのことについて語らなかったが、リザの話を聞けば、全ては分からなくても、状況くらいは理解できる。
「退役を免れた代わりに、イシュヴァールに尽くす―――それが大佐の代価だろ?」
 エドワードの言葉に、ロイは苦笑した。
「間違ってはいないが、少し違うな」
「?」
 手を止めて言えば、エドワードは少し意外な顔をしていた。
「代償だから尽力するのではない。視力のことに関係なく、そのつもりでいた」
 自分に出来ることを考えようと思うとノックスに言ったことに偽りは無かった。
 過去の自分への戒めとすることも出来たが、ロイは敢えてこちらの道を選んだ。
「等価交換と言うが、君たちはそれを否定するのだろう?」
 封をして、目立つ所に中身を書くと、ロイはその箱を隅に寄せた。
「―――どこへ行く?」
 顔を見なくても、エドワードが驚いているのが分かった。胸中を読まれたようなそれだ。
「何でそれを…」
「どれだけの付き合いになると思っている」
 思い返せば、長い付き合いだ。
 西回りで色々と、と答えておいた。考えてはいるが、アルフォンスと相談していないから、具体的な見通しと言うのは立っていない。目的のために動く旅なのは確かだが。
 エドワードが言えば、ロイは今までと同じだと笑った。目的こそ違うが、行動スタンスは驚くほど変わっていない。
「うるさいな」
「事実を言ったまでだろう?」
 このやりとりも、あまり変わっていないのかもしれない。
「―――左足は良かったのか」
 人体錬成で持っていかれた彼の左足は機械鎧のままだ。弟と違って、元の身体を取り戻せたとは言い難い。
「自戒として背負ってくよ。それに―――」
 続きを言おうとして、エドワードは言い淀んだ。何となく、ロイの前では言いたくない。
「ロックベル嬢が残念がる」
 あっさり言われて、エドワードはたじろいだ。自覚したのはつい最近だというのに、もしかすると、周囲にはとっくにバレていたのかもしれない。
 図星だなと付け加えられても、反論できなかった。
 やがて、扉をノックする音がして、ロイが入室を許可すると軍人が顔を出した。
 エドワードの顔を見るなり、元国家錬金術師だからか少しだけ畏まって、お話し中申し訳ありませんと詫びて、ロイに用件を告げた。
 早々と去っていく士官を目で追って、エドワードもトランクを手に取った。
「俺も帰るわ」
 彼は本当にせっかちだと思う。身体を元に戻す旅をしているときもそうだった。
「ああ」
 さよならとは言わない。生きている限り、どこかで会うことになるからだ。
「―――大佐」
 扉の前で立ち止まり、エドワードは何かを思い出したように振り返った。
「中尉を大切にしろよ」
 お守りに泣かせたりなんて可哀想だからな、と彼が言ったのは、自身と何かを重ねているのかもしれない。
「君に言われなくとも」
 分かっていると返せば、エドワードは笑った。じゃあな、と言って帰って行った。
 足音が遠ざかった頃に、小銭を返してもらうことを忘れたことに気が付いた。

fin.

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 挨拶回り、大佐と中尉はエドだろうなぁと。
 それにしても別人と化している感が否めない件(苦笑)
 タイトルは、Hitomiさんの曲(某挿入歌)より。
 2010/10/31