「失礼ですが、どちらさまで―――?」 私が訊ねたとき、彼は酷く驚いていた。 当然だろう。客人でもお尋ね者でもない上司にそんなことを訊ねたのだから。 特定の人間の記憶だけが何の前触れもなく消えてしまうなんて考えてもみなかった。聞いたことすらない。 後から考えれば、彼を傷つけてしまったと思う。 そんなことはない、とあなたは笑って誤魔化すけれど。 「な…に言っているんですか」 言ったのはハボックだが、みな揃って同じような顔をしていた。 彼らとはもう長い付き合いだから、リザもそれはすぐに分かった。 「来訪者には名前と用件を訊ねる、当然でしょう?」 ハボック少尉、とリザが言えば、ハボックは今にも咥えた煙草を落っことしそうだった。 「…中尉、大佐と喧嘩でもしましたか?」 ブレダが妙な顔をして訊ねてくるが、リザにはそれが逆に疑問だった。 「初対面の人と喧嘩なんてする筈ないわ」 肩の階級章からも佐官の最上位と判断したリザは、ロイを応接室に案内しようとする。 執務室の扉を開けようとしたところで、後ろから腕を捕まれた。 「―――どういうつもりだ」 君を怒らせた覚えはないぞ、とロイは軽く睨んできた。 リザは首を傾げる。 「執務室では何かとご不便では?」 少しお待ちいただければ、上官を呼んで参りますので。 そう続けようとして、リザは上司が誰かわからないことに気が付いた。 To be Continued... 2008.03 / 2010.09 |