大佐のことばかり考えて、辛くありませんか中尉。目の腫れだって、大佐のことで泣いたからでしょう。倒れた原因じゃないんですか。俺は中尉の泣いた顔なんて見たくない。笑ったほうがずっといい。忘れたままでいいじゃないですか。辛いだけでしょう。 ハボックはそう言った。リザを抱き締めたまま。 そして事実、倒れた原因のひとつの可能性として心的要因があると軍医から指摘された。記憶喪失の話はしていなかったから、びっくりした。 リザは仕事に戻ろうとしたが、ハボックからも軍医からも反対されて、帰ると、タイミングを見計らったように電話が鳴って、リザの肩は跳ね上がった。 真っ直ぐ帰ったかと言う司令部からの電話でもあるまいと思って受話器を取ると、意外な人物からで、驚いた。 「―――た、大佐?どうかされましたか?」 医務室でハボックに言われたことを考えていただけに、どきりとしたが、それとは別の懸念が浮かび上がった。 視察先から自宅に掛けてくるなんて余程のことだと、至極真面目に訊ねると、どうかしたのは君だろうと問い返された。 「司令部で倒れたと聞いた」 心配と言う言葉がそのまま乗ったような声音。 「―――具合はどうだ?」 一気に目頭が熱くなった。零れそうになる涙を必死でこらえる。 「申し訳ありません、大佐」 心配掛けて、そして、あなたを傷つけて。 言えば泣いてしまいそうで、彼を困らせてしまうから言わなかったが、二つの意味を言葉に込めた。 「そんなことはいい」 知ってか知らずか、ロイはリザの謝辞を一蹴した。 出立前に二重の意味を言葉に乗せた彼だから、気付いていたのかもしれない。 「脳震盪を起こして気を失ってしまったようです。でも、今は」 意識して明るく振る舞う。彼に心配を掛けてはいけない。 「安静にしていなくて大丈夫なのか?」 司令部から帰ってきて、と言う意味だろう。気を失った原因によっては、歩くなどと言った運動など言語道断なそれもある。 執務室の誰かから聞いたのだろうと推測する。 「はい。油断は禁物だそうですが、病気などの合併症では無いだろうとの診断でした」 ロイは、それを聞いて安堵の溜息を吐いた。記憶喪失が発覚して病院に行ったときも同じだったと思い返す。 だが、リザはひとつ言われたことを隠していた。嘘は付いていないが言わなかった。 (――――神経心原性) その一種の可能性があると言われた。記憶喪失の一件を知らない、先日とは別の医者からだ。それは、精神的ショックやストレスから誘引されることが多いと言う。 「そうか。兎に角、無理はするな。いいな?」 軍医とハボック同様、ロイもリザに釘を刺した。 「はい。お気遣いありがとうございます」 丁寧に礼を述べて、受話器を下ろす。 彼に知られていなければ良いと思いながら、長く息を吐き出したのだった。 To be Continued... 2005.01 / 2010.09 |