■変わったコミュニケーション(F.A-R*R)
「信用しているんだな」
明かりも乏しい中心街から離れた夜道で、ロイは不意に言った。
こんな道を夜に歩く人は居ないから、小さな声でも確かに聞こえる。
「何がですか?」
「あの殺人犯を、だ」
指摘を受けてリザは合点する。確かに、リザが忠告したそれを守るという保証はない。
「彼がファルマン准尉を殺しても利点はありません」
斬ることを快楽としていることは分かった。だが、リザが絶対に斬ってはいけないと言ったら手を出さなかったし、口約束を条件に情報提供をした。それは、分別は持ち合わせているということだ。
ロイからすれば、それを信用しているというのだろう。
「彼が殺せば、大佐は上層部に告発するか彼を殺します。殺してくれた方が楽だったと表現することを、再び被るリスクを負いはしないでしょう」
それに、とリザは思う。
バリーを疑っていたのならば、先のそれで釘を差すことも出来たのだ。
「―――そうだな」
ロイは微苦笑した。
もしかすると、彼女の意志は兎も角、べったりしているところを見せられて、妬いていたのかもしれない。
リザは特別な存在だからな、とロイは推測の根拠を早々に納得させた。それに別の理由があると知ったのは少し後のことだ。
「ところで、バリーはどうされるんですか?」
確かにいつまでもファルマンのアパートに閉じ込めて置くわけにもいかない。年間休暇は限られているし、それが長すぎたり、或いはリザ達で休暇を回していたら、怪しまれる。
「賢者の石の実験には、上層部が噛んでいる。そしてヒューズは軍がやばいと言っていた」
つまり、この二つが繋がっている可能性が考えられるわけだ。
ロイやリザが、第5研究所の実験を知らなかったように、バリーがヒューズの殺害事件を知らなかっただけで、秘密裏に動く人間が親友を殺したということも考えられる。
「釣りをしてみる価値はあると思わないか?」
暗闇にも慣れてきて、ロイが笑っているのが分かった。
「―――少々危険過ぎる気がしますが」
ヒューズ准将殺害事件から一連のことを考えると、上層部の一部は確実に黒い。だが、それがどこまで黒いのか想像がつかない。
「ことを成すには危険がつきものだ」
彼はそれくらい大きなものを追っている。リザもそれは知っているのだが。
「だから、君には私の女になって貰いたい」
「―――は?…どういう」
従属詞の意味が全く分からない。リザが訝しい顔になるのを見ると、私と君の仲だろうとロイは言った。
「なぁ、中尉―――いや、エリザベス」
耳元で囁かれたその名前の意味を、リザは正確に理解する。
「ちゃんと仕事、してくださいね」
リザは、内心溜息を吐いてそう答えるしかなかった。
*
「やあ、エリザベス!元気かい?」
電話の向こうの彼は、上機嫌だった。
果たして他の女性との電話はこんなものだっただろうか、と記憶を辿る。
「こんにちは、ロイさん。いつもお電話ありがとう」
声のトーンは普段より高め。呼び方も初めてのそれだ。
まだ仕事中?と分かっていることを訊ねる。彼が使っているのは、軍の回線だ。
自分が饒舌になっていることは認識していたが、そうでもないと余計な事を考えてしまいそうだった。
「ああ、どうしても君の声が聞きたくなってね」
笑顔の彼が眼に浮かぶ。街の女性はこの声と今にも浮かぶ表情を、いつも聞いているのだろう。
「お上手ね」
自分が、思ったよりも素直にその言葉を口にしていることにびっくりした。
隠していると言う訳ではないが、余計な感情は抑えているのに、偽りのやりとりで本音を言ってしまうとは。
「でも、こんなことをしていると、こわーい副官に怒られるんじゃないの?」
饒舌になってしまうのは、本心を隠すためだろうか、と思う。
出し抜く会話だと分かっていても、本音を口にしてしまいそうだ。
変わったコミュニケーションだと思う。
ロイ・マスタングの副官は、本当にお守りをしていたのだと、周囲は思っているに違いない。彼が意図的にそう思わせていたところもあるけれども(最も、それに便乗して本気で仕事をさぼってもいたが)。
それなのに、本音を口にしそうな自分がいるなんて。
「私もそろそろ休みをとろうと思っている」
彼のその言葉は、仕事とは別に何かを追っているという裏返し。
公私混同とあの時私は言ったけれど、これも彼の本音でもある気がする。
ヒューズ准将の敵を追い、大総統を目指す。
「あら、どこかへお出掛け?」
その目的を知っているはずなのに、変な質問だ。
「最近釣りに嵌っていてね、一緒にどうだ?」
それは、付いて来いと言う表現を、比喩的に緩和したそれ。
電話回線で別人をなりすましているというのに、全く変わっていると思う。
そんなことを考えながらも、会話を楽しんでいる自分に気付いてリザは苦笑したのだった。
Date:2010.08.10
今夜の火力はちょっと凄いぞの回(笑)
前半と後半のバランスが悪いのは承知です…どうしても削れなかった前半。
次かその次で伏線回収します…たぶん。