「・・・ドワード!エド!」
それに気づかず、エドワードはぼぅっとしている。筆を左手に持ったまま、上の空だ。
エドワードさん、と隣のハイデリヒに腕を突かれ、やっと気づいた。
「えーっと…何の話、してたんだっけ?」
エドワードは先ほどまで交わしていた会話が、全く思い出せなかった。
確かに聞いてはいたが、ずっとあのことばかり考えていた。
――僕でも代わりになれますか?
それが頭の中から消えたことはなかった。彼を見るたび思い出して、考えていた。
けれど、分らなかった。
どういう意味なんだ…?
だから、ずっと頭に残っていてエンドレスに繰り返す。まるで脳内がそれに占領されてしまっているように。
聞き返すエドワードに、ヨゼフはため息をつきつつももう一度話してくれた。
「二人組になって、それぞれ研究するって話。半月後、それを持ち合って討論会――思い出したか?」
「・・・そ、そうだったな。いいと思う」
思い出したように返事を返すと、彼は話を進めた。
一緒に住んでいるという理由から、エドワードはハイデリヒとペアを組むことになった。
****
「――何か考え事ですか?」
列車で数時間の移動を終えて、トランシルヴァニアからの帰途につく。ミュンヘンの駅まではみんな一緒だったが、そこからは各自方向が違うため、挨拶を交わして別れた。
二人きりになったところで、ハイデリヒは訊ねた。
「べ、別にっ」
図星と言わんばかりの顔でそれだけ答えると、そそくさと下宿先まで早足で向かった。
それをハイデリヒは追いかける。
「別にって…。研究熱心なエドワードさんが研究会で空の上にいる状態で、何も無いと言えますか。僕はただ――」
僕はただ、と言葉が止まる。心配なだけなんです、そんな単純な言葉が言えなかった。
お前には関係ないと言われるのが怖くて。
お前には解らないと言われることが恐ろしくて。
「・・・僕には言えないこと、ですか」
とだけ、ハイデリヒは言った。
エドワードは、小さく肯いて「ごめん」とだけ言って走りだす。
――言えるわけなんて、ない。
仕種も言葉も顔も、その視線や想いまでもが…彼に似ているなんて