無表情――というのはまさにこのことを言うのだろう。そんな表情で歩はひよのを見ていた。
いや、そうひよのには見えていた。

「もう10分くらい表情変えていないですよ?」

何か考え事ですか?
とひよのは訊ねる。
「そうだったか?」

本人は全く気付いていないようだ。それを聞いてひよのは「はぁー」と溜息を落とす。

「もう少し、笑ったほうがいいですよ?鳴海さんは無表情過ぎます」
「笑う要素が無い。故に笑えない。それだけだ」

ときっぱり。笑わないのではなく、笑う理由が無い、というのが本人の主張らしい。
もう、と言わんばかりの顔をしてひよのは歩の頬をつねった。

「それでも笑うんです!」
「ふぁにすんたよ(何すんだよ)」

「そうでないと幸運が逃げます。」
「俺はその前から逃げる幸運なんか持っていないさ」

歩の言葉は常に冷静に思えて、後ろ向きだ――とひよのは時々思うことがある。

「随分と後ろ向きですね」
「後ろを向きたくもなるさ。」

こんなことに巻き込まれれば、と付け加える。

「でも、あんたは表情豊かだな」

と歩がいうと、ひよのはそれに便乗するように言う。

「だから、私はこんなに幸せなんです!幸運なんです!鳴海さんも笑いましょう!ほら!」

そういって、無理矢理にでも笑わせようとする。
そんなひよのに歩は少し感謝する。

「あんたがいたら、いつかは笑えるかも…な。」

いつか。それはいつのことか、まだ分からない。

それでも隣に彼女がいるなら・・・

歩はそう思った。



END

愛のお題より「ほら笑って」
少しだけ歩君からひよのちゃんに矢印が出てます^^

〜2006.04.23
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